コミュニケーション能力とネットワーク力を活かし仕事を動かす!
岡田 光輝氏:オープラスオーアーキテクツ

独立はしたものの、営業の壁にぶつかる

岡田氏

岡田光輝さんは、神戸大学の大学院を卒業後、マンション系の設計事務所に就職。2年ほど勤めたのち、設計の幅を広げたいと公共施設を中心に受注する設計事務所に転職した。この会社で3年半勤めた後にオープラスオーアーキテクツを開業。現在は株式会社ライフサイズとのオフィスシェアというスタイルで活動している。
「独立を考え始めたのは、二つ目の会社に勤めていた頃ですね。設計事務所って縦社会なので、優れた提案をしても最終的には所長の好みや意見が全て。それならチャレンジも含めて独立してやっていこうと決意しました」。
しかし独立はしたものの、そうそうに仕事の依頼がある訳ではない。例え仕事の話があっても、独立後の作品がなければ、工事金額が大きいということもあり、なかなか成約にはつながらなかった。
「独立したと言っても、僕が勤めていた時にどんな仕事をやっていたかということを知っている人でなければ受注は難しく、最初は小さなリフォームなど知人の紹介の仕事からスタートしました」。

プロデュース会社のコンペに参加し、プレゼンのスキルアップ

独立して1年半ぐらいはリフォームなど知人の紹介の仕事が中心だったという岡田さんだが、昨今、建築業界でも幅を利かせつつあるプロデュース会社が主催するコンペに参加することにし、登録後半年は、様々なコンペに参加したという。初めて参加したコンペは教会の改修。10数社のうちの3社までに選ばれた。その他にもコミュニティ施設や個人住宅、案件は様々だ。
「コンペに出る事でプレゼンテーションの訓練にもなるし、パースやCGの技術のスキルアップにもなりますね。もちろん一般のコンペになると30社、40社はざらで競争率も高いのですが、施主の好みに応じて設計者のキャリアとセンスをセグメントしてくれるところもあって、そうなると5社程度。ハードルは低くなります、が成約率というと厳しいのが現実です。」
コンペに出しても必ず仕事に繋がる訳ではない、しかし出し続けるうちにプロデュース会社の紹介で、プレゼンをさせてもらう機会を得て1件の契約を取る事ができ、そのあたりから仕事が回りはじめた。

コミュケーション能力こそ、なによりも力強い味方

取材風景

岡田さんは設計事務所に勤務している時代もコンペに参加することがあった。しかしほとんどが不動産会社等の建築関係者向けのプレゼンなので相手もプロ、細部に渡って作り込みをする必要はなかったという。しかしまったくの素人がクライアントとなるとそうはいかない。
「まずはいいなと思ってもらうことが一番。ポイントはクライアントのイメージする思いがプレゼン資料に表現されているかどうかということですね。」
これは逆に受注が決まり細部の設計にかかるときでも同じで、こちらの思いを強く主張しすぎるとクライアントから本音の回答が返ってこない事が多い。そこで建築雑誌を一冊持参し、イメージを聞きつつ、雑談を含めてその人の人柄に触れることができると「ああ、この人はこんな風に考えているんだな」と感じとる事ができるという。
「大切なのはやはりコミュケーション能力ですね。一般のクライアントの方々は、『建築家はとっつきにくい、意見を言いにくい』と思われてので、相手の話をよく聞き要望にあわせて柔軟に対応するようにしています。建築家の選択は人柄重視という方もいらっしゃるので、その点は特に大切にしています。」
コミュニケーション力を必要とする相手はクライアントだけでなく、施工業者や協力業者等との関係性も大切になってくる。
「デザインやプランに関しては建築家の仕事になりますが、規模が大きくなると設備、構造設計が入ってきますし、個人住宅でも工務店やゼネコンなど自分にないノウハウを持っている人達とのコミュニケーションは、仕事の仕上がりに大きく影響してきます。」
施工業者に関してはクライアントから指名されるケースもあるが、それ以外の場合はこれまで何度か一緒に仕事をしてきた人とやることが多いという。
「僕の場合、詳細設計や工事に取り掛かる前にできるだけわかりやすく伝えることの出来る資料を作ります。デザインやプランの段階での修正は僕の守備範囲なので何度でもやりますが、設備・構造設計や工事にかかってからの修正は極力しないよう、ある程度固まった段階で一気にすすめてもらうようにしています。」

さらにネットワーク力をプラスして

岡田氏

建築家はデザイン、プランを主で考えながらも、スケジュール管理も仕事の一部。個人住宅だと設計から施工、引渡しまで標準で1年、リフォームだと設計で3ヶ月、工事で1ヶ月半の合計約5ヶ月かかる。
同じ建築設計といっても、案件ごとに工事期間や規模が様々なため、多くのスタッフを抱える大手設計事務所が受注するのと、個人事務所で仕事を受注するのとでは仕事の進め方が大きく異なるという。
「どの業界もそうかもしれませんが、忙しいときには仕事が重なるものですよね。こちらがバランスよく受注したいと思っていても、そうはいきません。だからといって仕事を断るのもつらいもの。そんなときは独立している前の会社の同僚に手伝ってもらったり、経験の少ない案件の場合は、他の設計事務所の人に協力してもらったりします。最近では、店舗設計の際に、株式会社ライフサイズさんにもアドバイスをもらいました。一人の力ではどうにもならないときには足りないときにはネットワーク力が大切だと感じます。」

建築設計というとどうしてもデスクワークが中心に思いがちだが、個人であればあるほどコミュニケーション能力とネットワーク力が問われる。とくに専門家=とっつきにくいと思われがちなところを、物腰の柔らかな岡田さんはそのキャラクターを上手く活かし、クライアントや業者とのコミュニケーションをとられているのがよく理解できた。
将来はやはり個人事務所から組織へと変貌を遂げたいと語る岡田さん。縦社会ではないコミュニケーション能力に長けた設計事務所としての形を模索して欲しいと思う。

公開日:2010年09月24日(金)
取材・文:株式会社ルセット 松本 希子氏
取材班:株式会社ライフサイズ 南 啓史氏