“クライアントの期待に応える写真”こそが“イイ写真”。
黒川 たくや氏:IDEA GRACE

黒川氏

心斎橋のちょっとレトロでクリエイターがたくさん入居しているビルにスタジオを構えるカメラマンが『イデアグラス』の黒川氏だ。現在、ヘアサロンのクリエイティブ監修、アパレル系のコマーシャルフォトを中心に活動し、現在は広告ディレクターとしても活動しているがが、かつてはデザイナーだったという。今回はデザイナーからカメラマンに転身したきっかけや、カメラマンとして大切にしていることについておうかがいした。

バンドマンとデザイナー、両立の日々。

学生時代はビジュアル系バンドが好きでバンド活動に明け暮れていた黒川氏。しかも、音楽を仕事にしようと考えていたというから、その本気度は相当なもの。しかし、音楽で生きていくのはいつの時代も厳しかった。
「結構、頭の中で保険を掛けるタイプなんです。そこで、バンド活動をしながらデザインオペレーターの仕事に就きました。効率的な作業のためのノウハウや、現場で必要なことをこの時に学びました」

しばらくして音楽を仕事にすることは諦めたが、今度はデザイナーとして独立することを目指すように。1年間デザイナーとして働いた後、独立した。
「独立のために貯金はしていましたが、独立後の仕事のことは全く考えていなかった。今思えば恥ずかしい話です。若気の至りもいいところですね(笑)」
と語る通り、全く仕事は無く貯金を食いつぶす日々だったという。そんな時、当時普及し始めたばかりのコンパクトデジタルカメラと出会った。

カメラマンになってカッコイイ仕事がしたい!


コズミックのカタチ

デザイナー時代、黒川氏は仕事を通じて写真の力を思い知らされていた。当時はバブル崩壊後の不景気な時代。クライアントがレンズ付きフィルムカメラで撮影した写真をメイン素材として使うよう指示することも少なくなかった。当然仕上がりは残念な感じに。そのたびに「写真こそデザインのキーだ」と黒川氏は痛感していたという。

ある日、偶然プロのカメラマンに出会い、そんな思いを伝えると「うちに来て勉強してみないか」と誘われた。カメラマンの仕事にカッコ良さや憧れを感じていたこともあり、フリーランスのデザイナーとして活動する傍ら、カメラマンのアシスタントとしての勉強も始めた。
「それまでも趣味でカメラ撮影をしていたんです。コンパクトデジカメが登場してすぐの頃で、趣味でアメリカ村の女の子の写真を撮ったりしていました。その延長が現在も続いているアートワーク『コズミックのカタチ』というサイトにある作品です。初めてプロカメラマンの撮影現場を見た時は、フラッシュの閃光や多くの人が動くスタジオの熱気……そんな独特の雰囲気に完全に圧倒されました。カメラマンがカッコ良かったんです。でも、アシスタントの日々はとにかく大変の一言。カメラマンとして独立するまでの1年半、技術を盗もうと毎日必死で勉強していましたね」

期待に応えたい!だから提案する。

作品

黒川氏の撮影スタイルについて話を聞いた。
「雑誌や広告の写真を撮影する際には“写真だけで完結しない写真”を撮影するように意識しています。つまり、写真単独で完成させるのではなく、文字やデザインが入った状態をイメージして完成となるように撮影します。デザイナーさんとコミュニケーションしながらの共同作業になるのですが、以前デザイナーをしていたことが活きてきますね。共通言語でもコミュニケーションも取れますから」

最も大切にしているのが、クライアントとのコミュニケーション量だという。
「現場ではどれだけお客様とうまくコミュニケーションできるかが重要。撮影と同じぐらい気を遣います。クライアントとコミュニケーションすることで、クライアントの頭の中にあるニーズを引き出します。それを自分の中で昇華して、さらに具体的なイメージを提案します。そしてクライアントからゴーサインをいただき撮影。この流れが、クライアントの期待に応えるためには大切だと考えています。これはPRディレクターの時も同じですね」

だが、最近のカメラマン志望の方誤解している人が多いと感じるという。
「クリエイティブはアートとは違う。でもカメラマン志望の方の多くが、アート=クリエイティブという発想。カメラマンはアート感覚で自由に撮影して、高いお金をもらっていると思われているようです。でも、本当に良いカメラマンはクライアントのニーズを写真で表現します。つまりクライアントやクリエイティブパートナーの意向に最も忠実か、プラスアルファを加えた仕事をする人であり、それがアートではなくクリエイティブなんですよ」

仲間との信頼感が“イイ仕事”の源泉。

最近は撮影のみならず、モデルの手配など撮影ディレクションの依頼も舞い込むようになった。きっかけはクライアントやクリエイティブパートナーから相談される機会が増えたからだという。
「クライアントから信頼していただいている証拠だと思って、お引き受けしています。本格的にディレクションをするようになると、いろいろなことが見えてきました。今まで以上に、メイクやスタイリストなどの仕事仲間を大切にしなければと感じるようになりました。みんなで良い仕事をしてみんなで成長する……仲間と一緒に成長したいと感じるようになったんです。これからも一人じゃなくてチームとして仕事をして、みんなで達成感を分かち合いたいですね」

黒川氏にこれからの活動についてたずねた。
「最近、改めて仕事は人だと思うようになりました。『自分のことを信頼してくれる人に不義理をせず、一生懸命頑張る』……今はそれだけを考えて、いつかは『黒川はイイ仕事するね!』と多くの方に言っていただきたいです」

公開日:2010年09月27日(月)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社PRリンク 神崎 英徳氏