配慮を忘れたとき、それはプロの仕事でなくなる
西條 龍一氏:(有)ブルー

西條氏

南船場にあるデザイン事務所bleu(ブルー)。所狭しと壁一面に参考資料が貼り付けられたオフィスでは、制作スタッフたちが真剣な面持ちでパソコンの画面と格闘している。そんな戦場化した空間とは対象的に、穏やかな青空を彷彿とさせる淡いブルーのシャツに身を包んだ代表の西條龍一さんが穏やかな表情で現れた。

「社名の由来は、会社の封筒がたまたま青色だったから」

取材風景

西條さんがデザインに目覚めたのは高校生の頃。デザイン系の学校を目指す友人に影響を受けたのがそもそもの始まり。しかし、西條さんにはデザイナーになるという確固たる志があったわけでもない。
「大学受験に失敗し、予備校に通うはめになりました。進学校に通っていたせいか、その反動で予備校生活は、勉強そっちのけでとにかく遊びまくる日々でした。昼夜問わず四六時中友達とつるんだり、貯金をはたいてアメリカへ一人旅に行ったり、予備校生らしからぬ生活を送っていましたね。そして、その年の暮れ、親に向かって言ったんです。『このまま受験しても落ちるから一般の大学行くのやめる』って」。
大学受験を強く勧める両親を説得して、興味があったグラフィックデザインの専門学校へ入学。卒業後は、大阪で有名なデザイン事務所に入社した。
「その頃は、根拠のない自信でいっぱいでした。なにせ30人近くいるクリエイターの中で、自分が一番センスあると真剣に信じ込んでいましたからね。まぁ僕だけじゃなく、周りもみんな『広告業界で一旗上げてやる』って夢見ているヤツばかりでした」。
入社3年目、知人から誘いを受けて、デザイン事務所の立ち上げるために退社。新しい職場で幹部として手腕を振るい会社を軌道に乗せていくうちに、「経営」に対する興味も沸き上がり、平成4年、28歳でbleu(ブルー)を設立する。
「bleuって名前、とくに深い意味はありません。当時使っていた会社の封筒が青色だったことと、僕の好きな色が青という理由だけで決めました」。しかし、そのままでは能がないからと、スペルの「e」と「u」の位置を入れ替えてフランス語のブルーに。そのお蔭で、メールが届かないというトラブルが続出し、当時は苦労したという。「しかし、それがかえって印象付けになり、社名を覚えてもらいやすいんです」と西條さんは言う。

気遣いある仕事をするのが本当のプロ

作品

物事にはあまり執着しないという西條さんだが、仕事に対しては人一倍こだわりを持つ。
「今は、パソコンソフトやプリンターなどの機器が発達し、誰にでも簡単にデザインができてしまう時代になりました。だからこそ、僕たちプロのデザイナーは、クライアントの思い、そこに至るまでの経緯を汲みとる“気遣い”が大事なんじゃないかと思うんです。優れたパソコンソフトさえあれば、素人の人でもカッコよくデザインを組むことができます。だけど、上っ面だけじゃなく、物事の背景にまで気を配って相手の真意を汲み取りデザインする。この気遣いこそが、プロとしての値打ちだと思うんです。だから、自分の仕事にいい加減な人間は、たとえ人間的に出来ていてもどうも感心できないんです」。
bleuは、西條さんを含む3名のデザイナーと1名のコピーライターで構成。家電や製薬会社の広告ツールをメインに手がけている。西條さん自身、これまで常にコピーライターと一緒にデザインすることに努めてきた。「この仕事スタイルは、デザインの仕事を始めた当初から徹底して貫いています。作品を作るプロセスで、デザイナーだからといって、ビジュアル面だけでモノを考えていてもイメージが広がらないし、妥当なものにはなりません。コピーからイメージが浮かぶこともあります。だから弊社は、コピーライターとデザイナーとが一緒になってコンセプトを話し合い、デザインとコピーの両輪で仕事を進めていくスタイルを取っているんです」。
西條さんにとって、この仕事の進め方がクライアントへの最高の気遣いになる。

「大事なのは、そこじゃない!」

西條氏

「最近、モノ作りの価値が履き違えられていると感じることがあります。例えば、デザイン一つにしても、発注先が『御社はこのソフトを持っていますか?』って尋ねてきて、『持っていない』と答えると、『じゃあ、今回の仕事は無理ですね』って他の会社を当たる。ソフトの有無で仕事の依頼先が決められる場面があるんです。でも、ソフトをたくさん持っていれば優秀、持っていなければ劣っている……って、デザインの良し悪し以外のところで仕事の優劣がつく現状には、何とも割り切れない気持ちがします。『大事なのは、そこじゃないんじゃない?』って言いたくなります」。
設備や事務所の規模など、うわべだけにとらわれ、本質を無視したモノ作りは空しい。デザインを行なうのは、パソコンソフトではなく、それを使いこなす人間だ。だからこそ、作り手の人生経験や仕事に対するプロ意識がデザインに反映される。

「自分の仕事にいい加減な人間は、たとえ人間的に出来ていてもどうも感心できない」という西條さんのこの言葉は、デザイナーという自分の職業に対するリスペクトの表れなのだろう。

公開日:2010年09月10日(金)
取材・文:竹田亮子 竹田 亮子氏
取材班:有限会社ガラモンド 帆前 好恵氏