デザイン力にプラスアルファの付加価値を。
小久保 あきと氏:グライド

小久保氏

小久保あきと氏が代表を務める『グライド』は、さまざまな企業の販促物やSPツールなどのデザインを行っている。しかも、クライアントの多くが大阪を中心とした関西の中小企業で、そのほとんどが代理店を経由しない“クライアントとの直接取引”だと聞いて驚いた。今回は小久保氏に、直接取引を実現できた理由、さらにはデザイナーになったきっかけなどについておうかがいした。

銀行員からデザイナーへの転身。

祖父が着物絵師兼画家だったこともあり、子供の頃から絵を描くのが好きだった小久保氏。大学進学時には芸大への進学も考えたが、両親の反対もあり普通の大学へ進学することに。その後、銀行に就職してクリエイティブとはかけ離れた生活を送っていた。だが、働きながらも心の中では自分がデザイナーという仕事に憧れを感じ、「このままでいいのか」と葛藤していたという。

そんなある日、「イラストレーターやフォトショップのソフトが使えれば、君もデザイナーになれるかも!?」という内容の本を見て「これだ!」と一念発起。3年間勤めた銀行を退職して、専門学校でソフトの使い方を学び、未経験者でも受け入れてくれるデザイン会社に転職した。
「そこは、デザイナーがずっと事務所でデザインだけをする会社ではなかったんです。デザイナーが営業の役割も兼ねていました。ですから一日の半分が外回りで、デザインは外回りが終わってから。100%デザインだけをやりたい人には物足りないと思いますが、当時の私にはそれでも楽しかったですね。」
結果的に、この会社で身についたスタイルが現在の『グライド』のビジネススタイルになっているという。

結婚直前に想定外の独立起業。

しかし、このデザイン会社で6年ほど働いた時、もっと腰を据えてデザインに取り組みたいという欲求が出てきた。
そこで、より規模が大きなデザイン会社に転職。だが、全く転職先の企業体質が合わず、1カ月で退社することに……。当時結婚を控えていた小久保氏は、想定外の“独立起業”という選択肢を選ばざるを得なかった。
前々職でのクライアントが何社があったが、想定外の独立だけに、当然のことながら売上は圧倒的に不足している。だが、デザイナーとしてがむしゃらに仕事をしていた時を思い出し、営業電話を掛けたり、大学時代の友人や知人を頼って営業活動を展開するうちに事業が軌道に乗り始めたという。

取材風景

クライアントの9割が直接取引の秘密。

作品

『グライド』は、仕事の9割がクライアント企業との直接取引だという。クライアントの新規開拓や仕事が継続できるポイントは何なのだろうか?
「直クライアントが多いのは、僕がデザイナーとして初めて勤めた会社の仕事スタイルでもあった、自分で企業に直接電話で営業活動をするという、いわゆる“テレアポ”という営業スタイルだからです。この方法は本当に大変で、100件電話して会えるのは5件ぐらい、仕事になるのは1件あるかないか。しかも継続でお仕事の関係が続くのはさらに確率が低い。非効率な方法ですが、独立当時の私はこのやり方しか知らなかったんです。」
でも、自分でテレアポで出会ったクライアントと仕事ができ、喜んでもらえた時の喜びは計り知れないという。「クライアントから『イイね!』と言っていただけた瞬間が、やはり最高に嬉しいですね。」

こうした広告代理店を介さない企業との直接取引を実現・継続できるのは、小久保氏自身の意識による部分も大きい。
「レスポンスのスピードには気を遣っています。さらに、クライアントの思いをしっかりと聞くことも意識しています。大きな広告代理店やデザイン事務所は営業担当者がいるため、発注企業は対応やレスポンスの遅さに不満を抱えているケースが多いんです。」

同時に、デザイナーと直接やりとりするからこその「プラスアルファ」の付加価値が必要だという。
「デザイン力があるのは当たり前で、プラスアルファの付加価値を付けないと、社長さんが窓口となる中小企業のクライアントには満足してもらえません。レスポンスの早さや小回りの効かせ方は先ほど説明しましたが、簡単に『できません』と断らないことも大切だと考えています。」

多くの人と出会い、横のつながりを広げたい。

作品

簡単に断らないといっても、小久保氏自身ができることには限界がある。そこで今後の『グライド』の目標として掲げたのが“クリエイターのネットワークをさらに広げること”だ。
「以前は自分ができるグラフィックデザインだけをアピールしていました。しかし、クリエイターのネットワークを広げることで、ウェブもイラストも撮影も……といった具合に、何でもできると言える方向に持って行くのが目標です。それはクライアントにとってもメリットになるはずですから。クライアントのため、自分のために、多くの人と出会ってネットワークを広げたいんです。」

事業についても、将来を見据えた未来への課題と目標があるという。
「私がデザイナーを長く続けていくためにも『グライド』を組織化していきたいです。デザイナーには賞味期限のようなものがあると考えていて、ずっと私一人ではいつか賞味期限が切れてしまう。ですから若い人に『グライド』を手伝ってもらい、お互いが刺激を受けながら一緒に成長していきたいんです。2人いればアイディアの幅も広がりますから、1+1=2じゃなくて3にも4にもなるでしょう。そして、さらにたくさんの人数で『グライド』を盛りたてていけるようになりたいですね。」

公開日:2010年07月28日(水)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏