関わるすべての人を幸せにする仕組み「3つ以上のWin」
山下 智恵氏:(株)エンツギウム

山下氏

北堀江の公園前に建つビルにある「エンツギウム」は、店舗、ウェブ、商品などのデザインを手がけながら、販売促進の企画立案やプロジェクト運営を行っている。「クリエイターが活躍しないと日本は沈没する!」と語る代表の山下氏は、タレントや店舗経営といった仕事を経験した後、独学でデザイナーになったという経歴を持つ女性社長だ。今回は、独学でデザイナーになったキッカケや社名の由来、自社運営事業を行うきっかけについてお話を伺った。

「クライアントとトコトン付き合いたい」と起業

「デザイナーになりたいと思ったことはないんですよ」と笑顔で語る山下氏。学生時代は、美術の授業や似顔絵を描くのが大好きな普通の学生だったという。ただ、好奇心は人一倍旺盛だった。
一時は専門学校で絵や映像について学んだが、その旺盛な好奇心を抑えられず、タレントとして活動したり、お店の経営に携わったり……経験した多くの仕事がおもしろかったという。

そんな山下氏を変えたのは、まだ創世記のWebだった。Webサイトの数も少なく環境も整っていない時代。好奇心の趣くままに、本を見ながら独学で制作したゴルフサークルのWebサイトが、当時は珍しい女性を意識したデザインだったことが受け、雑誌の取材や商品開発を依頼されるなど話題になった。
この時、人の心を動かしたりデザインする楽しさを体感した山下氏は、雑誌社や広告代理店に転職しながら企画立案やデザイン制作の実績を重ねていった。
プロジェクトを成功に導きながらも、山下氏の心の中にはどこか晴れない気持ちがあったという。その気持ちとは、広告代理店や雑誌社では、クライアントの売上や広告効果に一切の責任を持たないことだった。
「売ったら売りっぱなしというのが本当に嫌で……。これではクリエイティブの信用がどんどん失われてしまうと感じたんです。」と語る山下氏は、クライアントとトコトンまでお付き合いしながら仕事をしたいと考え、自ら起業することに。

「エンツギウム」に秘められた想い。

作品

「今も昔も、出会った人に助けられっぱなしなんです。今の仕事を続けていられるのは、周囲の人々のおかげ。多くの人との出会いがなければ、今の自分は存在しません。本当に感謝しています。」と笑顔で語る山下氏。起業時からその想いを胸に秘めていた彼女は、社名を「エンツギウム」とした。

この社名は、「エンターテインメント」や「エントランス(入口)」を意味する『ent'』と「広場」を意味する『gium』を組み合わせ「エンターテインメントの広場」という意味の造語だそうだ。他に、お客様やクリエイターと形成する「Win-Winの“円”」もイメージしている。
だが、もうひとつ、山下氏自身が最も大切にする『縁は次を生む』という想いが込められている。
「人と人が出会えば、そこには必ず“縁”が生まれます。その縁を大切にして相手に喜びや満足を提供すれば、その縁がまた新たな次の縁を生み出してくれます。私はこの“縁”にいつも助けられてきました。最近のビジネスシーンでは、パソコンやメールの普及によって、人と人の関係が希薄になりがちです。しかし、「エンツギウム」の仕事スタイルは、お客様とトコトン話し合うところから始め、コミュニケーションすることを意識しています。」

3つ以上のWinが備わらなければ、ビジネスは成功しない。


キッズスタジオフォトコンジャパン

多くの人に支えられながら、さまざまなビジネスを行ってきた山下氏。どんな種類のビジネスであっても、成功するために人とのつながりを大切にすることは欠かせないという。だが、そのポリシーは従来とは少し違っていた。
「ビジネスの世界では“Win-Winの関係を構築せよ”と言いますが、この考え方ではもう真のビジネスパートナーとなることは難しいと思います。二者間で“Win-Winの関係”を構築しても、すぐに相手を取って代えることができてしまう。真のビジネスパートナーとして関係を築くには、三者以上で“Win-Win-Winの関係”を構築することが重要です。自分が誰かに提供したサポートが、巡り巡って別の人から自分へのサポートとして提供されるような関係です。そうして初めてお互いが自分以外の全員のことを考え、ビジネスがうまく動くようになります。今後は、こうした考え方に加えて“世の中にWinが提供できる”ことも重要な要素になってくるかもしれません。」

日本が元気になる企画をたくさん作りたい。


チャリTロゴ

人の縁を大切にする山下氏が、今取り組んでいるのが「クリエイティブの力で業界や世の中を盛り上げる企画をたくさん作る」ことだ。

例えば、デジカメで簡単に写真撮影ができる現代だからこそ、街の写真館が持つ本物の写真技術を知ってもらうために「キッズスタジオフォトコンジャパン」の開催・運営を行っている。今では日本中から300以上の写真スタジオが参加する一大イベントに成長している。

現在は、企業がクリエイターデザインによるTシャツ購入を通じて社会貢献ができる「チャリT」プロジェクトの立ち上げに奔走中だ。これは社会貢献に加え、クリエイターを盛り上げるための企画だという。
「何事も“本物”を知ってもらうことが大切です。チャリTを通じて、一般の人々に本物のクリエイティブに触れて欲しいんです。本物も知った上で、選択する。そうすれば、クリエイターの活躍場所は確実に増えますし、自分を安売りせずにビジネスに取り組んでもらえる。そして、クリエイティブの力が認識されれば、広告宣伝も増えて日本が元気になります。だから日本が元気になるには、まずクリエイターが元気にならないとダメなんです。これからも多くのプロジェクトを通じて、クリエイターや企業を元気にしたい。そして日本を元気にしたいと思います。」

公開日:2010年07月22日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏