「クリエイターズファイル」は、メビック扇町の周辺・大阪市内各地で活動している「この街のクリエイター」を、クリエイターの視点で紹介するインタビュー記事です。

インテリアデザインをはじめ、店舗や住宅のデザインを行うarbol(アルボル)。代表の堤氏は、2006年にarbolを設立する以前は、ずっとクリエイティブの仕事に携わることを目指しながら、何度も様々な壁が立ちはだかったという。今回は、そんな壁を乗り越えながら進んできた道のりや、これから目指す方向性についておうかがいした。
堤氏は小学校に入学する前、物心が付いた時からモノを作ることが大好きだったという。「母が美術が好きで、『本物を観ておいたらいい』と、幼少のころ美術館に連れて行ってもらったりしていました。僕自身もレゴブロックを組み立てるのが好きで、ずっと熱中していましたね。当時は組み立てる子どもの想像力だけで何かを作るのが主流。レゴのパーツにタイヤが登場してからは、よくクルマを作っていました。何もない状態から何かを生み出すのが好きだったんだと思います。」
そんなモノづくり好きの性格は成長しても変わらず、学校では工作や美術の授業が大好きだった。絵も造形も両方好きなため、小学生の頃「画家か大工になる」と宣言していたそうだが、母以外の家族は今ひとつの反応だったという。
「親も親戚もごく普通のサラリーマン。母以外は、誰も僕の言葉を相手にしていませんでした。」
高校進学時は、美術科がある高校への進学を希望した。だが、事情により高専へ進学、コンピュータ制御プログラミングを学ぶことに。
「プログラミングの勉強を始めたんですが、もう全然面白くなくて…。『これはアカン、モノづくりをやりたい』という気持ちが大きくなりました。」
結局、高専を3年修了。だが、その後も堤氏が望んだデザイン専門学校への入学は再び断念することになり、実家近くのテーマパークでアルバイトを始めた。

アルバイトとは、レンタルサイクルの管理という美術とは全く関係ない内容だった。だが堤氏は暇を見つけては、自転車の誘導サインなどを手書きで制作していたという。それがテーマパークの販促物や園内ツールをデザインする部署の目に止まり、その部署で働くことに。何度も立ちはだかる壁を乗り越えて、クリエイティブの仕事を掴んだ瞬間だった。
「今思えば、テーマパークで声をかけてもらったのが転機でした。でも、進みたい道に進めない時も、ずっと気持ちだけは切れていませんでした。」
テーマパークでデザインの仕事をするうちに、もっと勉強したいという気持ちが膨らみ、貯金をしてデザインの専門学校に進学、念願のデザインを本格的に学んだ。さらに卒業時には、ひょんなきっかけで学校の先生の事務所に就職という幸運にも恵まれた。
だが、何の経験もない中で“仕事”としてのデザインは、様々な状況が重なり、決して楽しいことばかりではなかった。
「就職してからの仕事は大変でした。でも、仕事の流れや進め方を含めて、今の僕があるのはその事務所で働いたおかげ。本当に濃厚な時間で、この時間がなければ今の僕はありません。」
様々な事情が重なり、働いたのは1年6カ月という短い時間だったが、堤氏は自分に無かった多くを得ることができたという。

その後、念願のヨーロッパ長期旅行を実現するために設計デザインとは違う仕事に就き、半年間働いた堤氏。実際に4カ月間ヨーロッパを旅して、独特の空気感や風景をリアルに感じながら、自分をの将来を見つめ直すべく思索を巡らせたという。
さらに帰国後は、再び1年間設計デザインとは関係ない仕事に就き貯金をして、アメリカを旅行した。
「再び4カ月の旅でしたが、街に暮らす人々の表情や暮らしぶりを眺めていると、ヨーロッパとは違う空気感を感じました。アメリカの方が物質的に豊かなはずなんですが、前に行ったヨーロッパの方がすごく豊かに感じたんです。きっと、ヨーロッパは文化的に豊かだからでしょう。その違いを肌で感じることができました。」
帰国後、次はアジアを旅するつもりだったが、知り合いから「設計の仕事を手伝って欲しい」という誘いを受け、何かを感じた堤氏は、海外行きを中止して仕事を手伝うことに。

「予定では、すぐにアジアに行って、数カ月滞在して帰国後、どこかの設計関係の事務所でもう一度働き、独立するために学ぶつもりでした。でも、仕事を手伝ううちに、新築の住宅設計の仕事が舞い込んだんです。」
そのまま、仕事をするうち、自然の成り行きで独立開業することになり、現在に至るという。
「2006年に独立して仕事を始め、2009年6月に事務所を借りました。これから本格的に仕事を広げていく段階ですが、ずっとデザインやアートに触れていられる仕事を続けることが目標です。『こんな仕事をやりたい!』といった強い思いとは違う“やんわりした”思いかもしれませんが、だからこそ多くの壁を乗り越えることができたし、多少遠回りしてもこの仕事の道に戻って来れたんだと思います。思いが強すぎたら“ポキッ”と折れていたかも(笑)」
最後に、将来の夢についてたずねてみた。
「ヨーロッパで忘れられない光景があるんです。道端に使える家具や絵が捨てられていると、家具よりも先に絵が拾われていくんです。路上生活者の人も同じ。日本ではあり得ないですよね。きっと、芸術や文化が生活に溶け込んでいるんですよ。日本にも、そんなアートやデザインと自然に触れられる文化を根付かせたい。そのきっかけの一人になれたらいいな、と思います。」
(株)ライフサイズ 南 啓史氏
文:Short Cappuccino 中 直照氏
クリエイターズファイル Vol.150 公開:2010年01月28日

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堤 庸策
住宅, 店舗, 家具, 木, 大阪
「arbol」