“バランスのとれたクリエイティブ”を体現する2人の呼吸。
島田 智之氏・潟沼 裕平氏:balance

島田氏と潟沼氏

それぞれがフリーランスで活動中に出会い、意気投合。2009年の元旦に、『balance』を設立したアートディレクターの島田智之さん(写真左)と潟沼裕平さん(写真右)。現在の拠点は、大阪市西区にあるコラボレートスペース。そこからすぐ近く、2人がお気に入りのタパスバーの一角をお借りして、『balance』結成のいきさつから、2人組ならではの仕事スタイル、広告表現に対する熱い思いなど、じっくりお話をうかがいました。

“静”の島田さんと、“動”の潟沼さん。

島田氏

島田さんは、大阪芸術大学工芸学科に学んだ後、いくつかのデザイン事務所を経て、2001年に『Strip Graphic Design』としてフリーランスの活動を開始。持ち前のコミュニケーション能力の高さでクライアントと深い信頼関係を築いていたことから、独立後も継続的な仕事の依頼があり、企業のプロモーションやブランディング、広告を中心としたグラフィックデザインなど安定した活動を展開していました。プライベートはインドア派で、本や音楽から刺激を受けるのが好きだという島田さんは“静”のイメージ。

潟沼氏

潟沼さんは、近畿大学産業デザイン学科を卒業後、広告代理店に勤務。社内で不動産広告などを担当しながら、「もっともっと面白い仕事がしたい」と、会社に在籍しながら個人でのデザイン活動も並行してスタート。「会社の仕事よりそっちが忙しくなった」ため、2006年に『Meskon Art-Typo Graphic』として独立。広告を中心としたグラフィックデザインやアートディレクションなどをフリーランスで行っていました。旅が大好きで、人や場所など様々な出会いに刺激を受けるというアウトドア派の潟沼さんから受けるのはエネルギッシュな“動”のイメージ。

2人の出会いは、かなりイマドキ。

島田氏と潟沼氏

お互いにフリーランスで活動していた2人の出会いのきっかけは、なんとSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。「出会い系で出会っちゃったんです」と笑う島田さん曰く、「フリーランスで仕事をしていく中で一人では手が足りない状況が増えて、知り合いに頼んだり他のフリーの方を紹介してもらったりもしていたのですが、もっと外の人と出会いたい、つながりを広げたいと思い、某大手SNSに『デザイナー求む』の書き込みをした」のだそう。その発信を、当時フリーランスで活動しながら「もっともっと面白い仕事がしたい、世界を広げたい」と思っていた潟沼さんのアンテナがキャッチ!「そして、今に至る」と顔を見合わせて笑う2人から、仲の良さが伝わってきます。
こうしてイマドキな出会いを果たした2人ですが、島田さんの呼びかけに手を挙げた人は他にも大勢いたはず。その中で、潟沼さんが共同パートナーという存在になった理由はなんだったのでしょうか。よっぽど気が合ったから?島田さんに聞きました。「他の方にお願いした場合、特にフリーランスの方は費用対効果に対してシビアといいますか、『だいたいこれぐらいのギャランティで』ってお伝えすると、『この値段ならこれくらい』というものが上がってくる。それは決して悪いことではないんですけどね。でも、こちらとしては、すごく頑張ってくれたら、この限りではないんですけど…という思いもあって。ところが彼の場合は、こちらがびっくりするくらいたくさんのアイデアを提案してくれたんです。それも、一つ一つをすごく真面目に考えてくれてて。なんて熱い人なんや!って衝撃を受けたんですよね。で、この人なら、ただ下請けとしてお願いするのではなく、イチから一緒に仕事できるのではと思ったんです」この大絶賛を隣で聞いていた潟沼さんは、「ぶっちゃけた話をすると、僕はずっと代理店にいたので、費用対効果とかあまり考えてなかっただけですよ」と照れ隠し発言。「面と向かってそういうことを話す機会はあまりないので照れますよね」

『balance』設立は自然な流れ。

そうこうするうちに、ほとんどの仕事を2人共同で行うようになる。「僕ら的にはそのままでも良かったんですけど、クライアントさん側からすると、仕事は一緒にやるのに支払は別々というのが物理的に面倒くさい、となりますよね。というわけで『balance』設立」と、島田さん。フリーランスからユニットになったことで、変化したことはあったのだろうか。「お互いの立ち位置はあくまでフラットという関係性や、仕事のやり方はそれまでに確立していたので、そこからなにかが変わったということはまったくないですね」と、潟沼さん。「一つの案件を進める場合、まずコンセプトは2人でじっくり相談します。ここが一番大事。そして、核が決まったら、ビジュアルの方向性は2人それぞれのベクトルへ。表現のスタイルは、お互い全然違いますから。で、両方をプレゼンして、クライアントさんが選んだほうが、その仕事のイニシアチブをとるという形にしています」とのこと。お互いのクリエイティビティを尊重する姿勢が、衝突を生まない秘訣なのでしょうか。というわけで、「相手のここはすごいと思うことろ」を聞いてみます。
潟沼さんは「島田さんの仕事の進め方。皆の意見を尊重しながらいろいろ調整してバランスを取りながら進めていくやり方はすごいなと思います」とのこと。それを聞いていた島田さんは、「なんか褒めあいで気持ち悪いですね」と断りながら、潟沼さんの「あきらめない姿勢がすごい」と。「“なぜこういう表現になったのか”を相手に伝えることをあきらめない。“わかんなかったらいいです”ではなくて、わかってもらうまでゆずらない。そのエネルギーは本当にすごい!」と語ってくれました。

作品

広告を通してコミュニケーションしたい。

そろって「広告という表現方法が好きなんです」と、まっすぐに語る2人。ただしその好みのテイストは違っていて、「海外の広告に多い“見てすぐに伝わる”タイプが好き」という島田さんに対し、「僕は、もう少し情緒的というか、ちょっと考えさせるもの。1分くらい考えて“なるほど”と思うようなものが好きです」という潟沼さん。続いて島田さんが、「広告を見た人とコミュニケーションをしていきたい。自分が今までに広告で感動を経験したように、見る人に余波が与えられるような広告を作っていきたい」と言えば、「違和感のあるものを作りたい。デザイナーのエゴにならないようバランスは取りますが、見る人にちょっとした違和感を与えるもの。“何これ?”って思わせるものを作りたい」と言う潟沼さん。静と動、直球と変化球、異なる2つの個性の絶妙なバランス感こそが、『balance』の魅力の源だと感じる。
そんな2人が一番大切にしていることは、「全てにおいてバランスのとれたクリエイティブ」を心がけること。さらに、「『balance』というフィルターを通して仕事を選ぶこと。来た仕事はなんでもかんでも受けます。ということではなく、僕ら2人がやる意味・意義がある仕事をしていきたい」とも。最後に今後の展望をたずねると「自分たちだけの事務所を持ちたい」と声を揃える2人。きっとその日もそう遠くなさそうだなと思う。この2人が自分たちの城としてどんなバランスの空間を作り上げるのか、今から楽しみでならない。

公開日:2009年12月02日(水)
取材・文:C.W.S 清家 麻衣子氏
取材班:大久保 由紀氏