きっかけみたいなものが街の中でたくさんあればと思います。
梅田 唯史氏:beyer(バイエル)


beyer
大阪市天王寺区玉造元町14-25

玉造の商店街にあるブックカフェbeyerは、普段デザインの仕事をしている梅田さんのお店だ。実はデザインの仕事を模索する中で誕生したということが、このインタビューでわかりました。

きっかけはホームページづくりからはじまった。

梅田氏

大学を1年で辞め、2年間働いて貯めたお金でイラストの専門学校で勉強をしていたという梅田さん。「人まねのようなイラストしか描けなかったんですが、グラフィックの授業が面白くて、途中からグラフィックデザインにのめり込んでいきました」。

卒業後、広告制作の会社に就職。主に新聞広告を制作していた。しばらく働いていたものの、経営が芳しくなくなり会社が倒産の憂き目にあった。

「転職を考える前のタイミングで、昔のバイト先の先輩から『ホームページをつくってみない?』という依頼をいただいたんです。2001年頃だったかな。できます、と言って打合せの帰りにDreamweaverの本を買いました(笑)」。

独立する気持ちで始めたわけではなかったものの、その後も雑貨屋のホームページ依頼や、卒業した専門学校の講師を担当するなどフリーランスの仕事が増えていった。

「たまたまタイミングよく、流れにのっているうちに人脈が増えていった感じです。最初は自宅で仕事していたのですが、2004年ごろは手伝ってくれる人も増えて南堀江(四ツ橋)のほうで物件を借りました」。

そこに間借りというカタチで入って来たコンサル会社の方からも仕事依頼があったということもあり、大手医療関連会社のホームページを中心に制作する日々が続いた。計4人で制作していたが、自分ではまわしきれなくなっていた。

「人に何かやってもらうというのは向いていないと思いました。人間的に未熟だった、というのもあります。デザインを人に任せらなかったんです。デザインを手伝ってもらっても、みんなが帰ってから手直ししたりしていたこともあって、人の人生を預かるのはちょっとしんどいなあと思いました」。

ソーイングギャラリーのボランティアスタッフに触発された。

忙しい日々の中、自分サイズの仕事をやろう、と考えるようになっていた。すぐに店というのが思い浮かんだ。

「ひとりで仕事を始めた頃、堀江のシャムアさんで永井宏さんが文章を書くワークショップをやっておられたのですが、そこに通っていました。しばらくして永井さんから枚方に良い場所があるんだけど、という話があったんです」。

それがソーイングギャラリー。枚方の洋裁学校の一角に、永井さんに出会ったことで触発された人たちがボランティアスタッフとして集まって来ていた。

「あそこって作品を発表したことのないような方が、最初に個展を開催する場所なんです。暮らしてゆくのが楽しくなったり、日常に変わった目線を入れることができる。その受け皿になるようなギャラリーが当時はそんなになかったと思うんです」。

商品

「次の受け皿となるところを自分たちで考えていかなければ、という話をスタッフの間でよくしていました。代表だった中島恵雄くんがBOOKLOREという名で本の出版をはじめたり、ケータリングをはじめた人がいて、じゃあ自分は何をするのがいいのかな、と思ったときにずっと続けて行くためにはつくったものがお金になるような場所がどこかで必要になるのかと思っていました。SNSとかtwitterとかITツールが発達すればするほど人が見える場所、集まる場所が必要かなと思うんです」。

バイエルでワークショップに取り組んでいきたい。

2008年6月、玉造にブックカフェ「beyer」が誕生した。

「朝8時にお店に来て、デザインの仕事をして、11時半ぐらいになったらお店を開ける準備をして、お客さんが来たらおしゃべりしています。それで夜8時に終了。お昼以降のデザインの仕事はなるべく単純作業ができるようにタスクをわけるようになりました」。

奇数月には永井さんの朗読会も開催している。

「永井さんに会うまではわりと広告をやっていたというのもあるのですが、変わったことをとにかく考えて人と違うことを考えないといかんという感じでした。でも今は、もうちょっと自分のことを見つめるようになったと思います」。

今後取り組んでいきたいのはワークショップをイメージしている。

「ものづくりから何かを得てもらうというのを考えていたんですけど、もっとご飯をつくるとか単純なほうがいいんじゃないかと思っていたりもしています。自分がいろいろ勉強させてもらって、お客様には自分の仕事に活かせてもらえたらなあと思います」。

ワークショップというカタチでイベントにすると参加しやすいということと、きっかけになりやすいと考えている。

「学んでもらうのは難しいけど、人のそういう文化度をあげていかなければ、デザインみたいな仕事は先細りになっていくだろうと思うんです。意識を変えていきたいというのはありますね」。

取材風景

「海外のギャラリーに買い付けに行ってみてたら、スーパーの袋をさげたおばちゃんが絵を買おうとしているんですよ。自分の出せる範囲で作品を購入して、自分の家がよくなるというような感覚があって、日本の場合はそれがすごく少ないのかなと思います。ルーブル美術館展とかやるとドワーと群がるけど、別にアートが好きなわけではないという感覚はさみしい気がするし、そのへんを微力ながら変えて行かないと、と思うんです。そういうきっかけみたいなものが街の中にたくさんあれば、と思います」。

そのきっかけづくりはきっと骨の折れることだと思う。ぜんぜんわからないことだけど、そういうことを考えるのは好きなんだろうなという言葉に、梅田さんの大切にしているものの根源がそこにある気がしました。

公開日:2009年10月30日(金)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:カイエ株式会社 多々良 直治氏/藤野 亜紀子氏