クリエイターとの連携で、新しい切り口の屋外広告を生み出したい。
鎌田 弘幸氏:アド・サイン(株)

都会でも郊外でも、外を歩くと必ず目にする屋外看板。今回お話をうかがった鎌田氏が所属するアド・サイン株式会社は、主として屋外サインの制作、取り付けをメインに行っている会社だ。よく目にするけれど意外と知らない看板業界の話や、最近話題のOOH広告について、さらにはクリエイターとの連携を目指す将来の戦略について話を伺った。

看板業界は人脈がモノを言う閉鎖的な業界だった

鎌田氏

アド・サインでは、広告代理店などを主要クライアントとし、デザイナーが制作した看板デザインを受け取って、それを実際の看板として制作や設置施工を行っている。トイレのマークから屋上の広告塔まで対応できる設備と技術を持ち、制作から設置施工まで行うのは、アド・サインも含めて関西でも数社しかない。時には、その知識と能力を買われて、デザイナーに看板制作の視点からアドバイスすることもあるという。

「かつての看板業界は、看板の制作や設置が非常に職人的な仕事でした。デザイン、看板制作、設置施工のいずれかを行う分業タイプの事業者が多いのも昔の名残ですね。実際に、数年前までは過去の人脈で舞い込んでくる仕事だけで十分な収入を得る職人が多かったんです」という鎌田氏の話には驚いた。

IT革命が看板業界に革命を起こした

そんな看板業界を一変させたのがインターネットだ。業者をインターネットで検索して探すクライアントが増え、一気に価格競争の波が押し寄せた。また、看板に対する知識もネットによってデータベース化され、業界関係者だけが知るノウハウが少なくなったのも大きいという。

また、コンピュータでデザインしたものが、ダイレクトにプリンターで出力されるようになり、職人的な技術や知識が必要なくなったのも大きいという。

そんな中で、アド・サインはIT技術を利用して“スピード”を極限まで追求している。「クオリティが高いのは当然です。社内のPCをネットワークでつないだり、現場とはメールで情報をやり取りするなど、今はITをフル活用してスピードと総合力を差別化ポイントとし、価格以外の部分で勝負しています」と鎌田氏。

消費者の多様化と数字を重視する広告主

取材風景

屋外看板には、二つの機能があるという。一つは人を誘導する案内板やランドマーク、目印としての機能。お店の看板やお店までの誘導を行う看板は、こちらの機能が重視されている。

もう一つは、人にアクションやインプットを喚起する機能だ。商品やブランドの屋外看板はここに含まれる。鎌田氏いわく「昔は、数多く目に飛び込ませてインプットすることが重視されていました。だが、インターネットのように効果が数字で算出されるメディアが登場し“費用対効果”を重視した広告戦略が広がりました。もう“やみくもに人通りが多い場所に大きな看板を出す”という戦略では、広告主のOKは出ません。」

OOH広告としての看板が持つチカラに注目


大判サイズの出力も社内で行える体制を確保

そんな中で、最近はOOH広告という考え方が注目を集めている。OOHとはアウト・オブ・ホーム(Out Of Home)の略で、家を出た瞬間から触れる広告物すべてがOOH広告に含まれ、もちろん屋外看板もOOH広告の一つとされている。

「さまざまな種類のOOH広告が絡み合うことで、広告効果はより大きくなります。OOH広告全体から看板広告の位置づけを考えれば、常に“大きく、派手に”を良しとする考えは、必ずしも正しいとは言えないと思っています」と鎌田氏。

そのため、最近は携帯電話と連動したデジタルサイネージ広告などの施工を行うなど、看板とIT技術を融合した商品に携わることも増えているという。だが、どんなタイプの広告看板が成功するのか、まだ業界全体が手探り状態なのも事実だ。

“街を作っている”という自負と、日本らしい屋外看板


あらゆる看板の制作が可能な自社工場

そこで鎌田氏が考えたのが、クリエイターとの連携だ。広告も原点に戻れば「目を惹く」ことが重要。デザインのプロと制作のプロが企画段階からコラボレーションし、ITに走るのではなく、「見せる」技術を強化していくことで活路が見いだせると考えている。
「看板の“集客・イメージ作り”という機能を落とすことなく、地域に馴染むデザイン、日本独特の“侘び寂び”的な風合いを残した味付けが、日本の看板屋として目指すべき方向性だと考えています。そんな思いや、デザインとコストのバランス、クライアントのニーズをうまく汲み取って仕事をしてくれるクリエイターと仕事をしていきたいですね」と鎌田氏は語ってくれた。

メビック扇町の活用と目指すべきアド・サインの姿

制作、設置施工できる技術を強みとしつつ、付加価値をどう広げるか。そのために、異業種同士のコラボイベントに参加したり、メビック扇町でクリエイターと交流するなど、積極的に取り組んでいる。「メビック扇町でのクリエイターとの出会いは刺激になります。最終的には社内にデザイナーを雇用し、看板広告制作の企画段階から加われるようになりたい」と鎌田氏。

将来の戦略を伺うと「看板業界において、企画段階から声がかかる存在になりたい。技術力、クリエイティブ力、コンサルティング力などのトータルバランスで一歩秀でたい。「あの仕事どこがやったの?」「アド・サインですよ」「おぉ、あそこか」と言われる存在になれたら最高ですね」と力強く語る鎌田氏に、そんな未来の実現を目指す決意を感じた。

公開日:2009年08月13日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社ゼック・エンタープライズ 長尾 朋成氏、株式会社ファイコム 浅野 由裕氏、真柴 マキ氏