大阪のクリエイティブシーンに国際的な可能性を——
後藤 哲也氏・ダンカン・ブラザトン氏:ooo

西天満の片隅にあるビルの扉を開くと、白とパステルグリーンで統一されたスタイリッシュな部屋が目に飛び込んできた。出迎えてくれたのは、「ooo(オーーー)」主宰の後藤さんとメンバーのダンカンさん。“個と個を繋ぐ場の提供と機会づくり”をコンセプトに、各種セミナーやワークショップを開催している。今回は、その名前の由来である“Out Of Office(会社を不在にする)”をテーマに、「働き方のこれから」づくりに励む2人にお話を伺った。

取材風景

取材風景

海外を視野に入れて……

「クリエイティブの分野で海外を視野に入れた仕事をしたいと思うようになったのが、「ooo」立ち上げのきっかけです」と後藤さん。インターネットさえあれば、どこの国の人とでも簡単に交流ができるという利点を生かして、何か面白いことが企画できないかと考えていた時、2年に1度のシンガポールデザインフェスティバル2007が開催される。「シンガポールのクリエイターと共同で考えた企画がフェスティバルの正式出展作品として採用され、現地で展示とワークショップを行う機会を得ました。ダンカンに声をかけたのは、そのときです。4年ほど前から知り合いではあったんですが、ちょうど彼の働く英会話教室が潰れてしまって……。それで、一緒にやらないかって……」

地元オーストラリアで、ビジュアルコミュニケーションを専攻していたダンカンさんは、そんな後藤さんの誘いを二つ返事で引き受けたという。「英会話教室で働いていたときは、どこか大きな組織の一部のような気がしていました。居ても居なくても変わりのいるポジションがとてつもなく嫌だった。小さくてもいい、お金にならなくてもいいから、自分でなければできない仕事をしたかったんです」

仕事×国際交流

シンガポールデザインフェスティバル2007で、貴重な経験をした後藤さんとダンカンさん。2人は西天満に構えた事務所で、国際交流をテーマにしたオルタナティブワークスペース「ooo」を始動する。気鋭のドイツ人写真家の作品集販売をはじめ、シンガポールデザインフェスティバルで発表したクリエイティブリユースプロジェクト「GOMI-GOldMIne」をワークショップとして取り入れるなど、海外を意識した仕事に携わっていくうち、後藤さんの中である気持ちが大きくなっていったという。


「GOMI-GOldMIne」のワークショップの様子

“東京以外”と位置づけされる大阪に違和感

ダンカン氏

「大阪にも素晴らしいクリエイターがたくさんいるのに、大阪にはその能力を発揮する場所や機会が思っていたよりも少ないんですよね。だから、クリエイターはこぞって東京に出て行ってしまう。大阪は、もっともっとポテンシャルの高いまちのはずなのに、今は“東京以外”という枠組みに収まっているような気がして。それがなんだかおかしいなぁと……」

そのせいもあって、大阪のクリエイティブシーンは、海外ではほとんど知られていない実情がある。「僕は2001年にオーストラリアから大阪にやってきたんですが、当時は“大阪にはクリエイターなんていない”と思ってたんですよ(笑)。そういう職種の人は皆、東京にいるもんなんだと思っていたんです」とダンカンさん。現在は、自身のブログを通じて、大阪のクリエイティブの情報を発信しているという。「少しずつ大阪に興味を持ってくれる人が増えたんですよ」

クリエイティブシーンの活性化を狙う

ダンカン氏
アガットさんの制作風景

1月31日(土)?2月21日(土)の3週間に渡り、後藤さんたちは事務所のオープンスペースを使って、大掛かりなイベントを企画した。その名も「クリエイター・イン・レジデンス・プログラムcOOOkbOOOk(クックブック)」。海外のクリエイターが大阪に滞在して作品制作に取り組み、そのプロセスを共有するというスタイルのアートイベントだ。

「今回は、ベルリンで活動するフランス人作家のアガットに依頼しましたが、今後も同じようなスタイルでこの企画を進めていけたらと思っています。こうしてイベントを企画することで、多くの人がここに集い、何かを感じてくれたら……。そして、この場を利用して、互いの繋がりを増やしていけたら、ひいてはそれが大阪のクリエイティブシーンの活性化にも繋がるんじゃないか。その役割が少しでも担えたらと思うんです」

後藤さんがそうして人と人の輪を取り持っているように、ダンカンさんも独自の方法で大阪のクリエイティブシーンを支えようとしている。「活躍の場を海外に広げるためには、英語が必要不可欠だと思うんです。かといって、就業時間が不規則なクリエイターの皆さんが、英会話教室に通うのは難しいですよね。僕は、そんなクリエイター向けの英会話教室を開いています。好きな時間に講義を受けられるのはもちろん、各々の仕事に合わせた生きた英語をお教えしますよ」

大阪がダメなら東京……ではなく、海外へ??。そんな国際的な可能性を広げたいと奮闘する後藤さんとダンカンさん。今はまだ、それぞれに地盤固めの時期だという2人の視線の先には、希望溢れる未来が広がっているに違いない。

公開日:2009年02月19日(木)
取材・文:國澤 汐氏
取材班:宮下 大司氏