追いつめられたときこそ本領発揮できそうな気がする。
藤田 豪氏:GOSiZE

取材風景

中崎町で建築事務所GOSiZEを営む藤田豪さん。子どもの頃から建築家になるのが夢だった。
「地元岡山は土地が広いので住宅展示場がたくさんあるんですね。それを見て回るのが中学生ぐらいからの楽しみだったんです(笑)。その延長で大学で建築を学びました」。

卒業後は京都の高松伸建築事務所に入社した。「メタリックな装飾が印象的な大阪・道頓堀のランドマーク的存在だったキリンプラザなど、ポストモダンの建築家の一人である設計事務所に入所しましたが建築家になる夢を実現させる為に早めに独立しました」。

営業の方法がわからず『逆営業』?

23歳での独立当初は店舗中心の設計を手掛けた。
「住宅よりは店舗を中心に手掛けていました。依頼を受けてからできあがるまでに1〜2ヶ月でオープンしたい、みたいな話が当時多かったんです。バブルがはじけて脱サラで商売するっていうのが結構多い時期で、生活する為にすぐに商売を始めてみたいんだけど、という依頼が多かった。結構それでスピード感やデザインの決定力は鍛えられたところがあるかも知れないです」。

藤田氏

営業方法がわからなかった独立当初は、手当たり次第、こんな物件がつくりたいということを会う人会う人に言っていたそう。
「営業で事務所に来られた厨房の什器メーカーさんにさえ言ってました(笑)。逆営業ですね。今から考えたら無茶苦茶ですけど、仕事を得るということに対して貪欲だった気がします、大変でしたから(笑)」。

それを皮切りに、さまざまな物件を同時並行しながら3ヶ月スパンで着工を繰り返している。

古い長屋のリノベーションが
日本人としての『住まう』生活空間を見直すきっかけになった。

思い出に残っているのは築100年の長屋のリフォームだった。
「100年以上の長屋は入ったときに床に足が埋まるほどぼろぼろで、3、4年誰も住んでない廃墟のような家だったんですよ。構造、内装の仕上げが昔の手法だった為に普通の大工さんじゃ無理だからっていうんで70歳ぐらいの引退された方に来ていただいて、いろいろ教えていただきました」。

内装写真1

内装写真2
photo/Fukuzawa Akiyoshi

雨漏りする、シロアリが出るなどのトラブル続出物件を体感したことで、良い勉強になったと語る。
「住み心地の良い家を自分なりにつくるにはどうしたらいいのか、いつも以上に考えていました。今までの店舗の経験があるので、ちょっとお客さんが来たときに喜んでもらえるような居心地と驚きを与えられるような空間をデザインしたいと思っていました。
古い大黒柱の1本がなくなるだけで構造的にもたなくなり、家は崩れるわけじゃないですか。捨てることは簡単にできるけど、それを残してやり遂げることの大事さってのもあるなと思って。古いものを壊すという概念を壊された瞬間でもありました」。

しかし自邸完成後、家でのんびりしたくて、一年間仕事を全くしなかった時期がある。「家の金魚を見ていたら、ゆっくり泳ぐからセカセカするのってしんどいなって思ったんです。いろいろ考えていた時期ですね」。

一年間、のんびりする生活だった。
「仲の良い営業の方とかが心配してくれて、家に来てくれたりしました。何もないんだけど今は働く気がしないからゆっくりします、みたいなことを言ってました。あっという間に一年が過ぎていきました。貯金が尽きてやばいと思って、またがんばり出したんです。それからはもう思いっきり仕事をしていましたね」。

言葉通り、たくさんの物件に携わり、その多くが次々に建築雑誌に取り上げられた。作品のデザインはどこで学んだかはわからないと言う。
「高松伸さんっぽいわけでもないですし、大学でこういうデザインを勉強していたわけでも全くない。今までの経験と感覚的なものをつきつめていった結果、今のデザインに落ち着きました」。

忙しすぎて案件が多数重なったこともあった。「それをどうやり遂げるかを考えるのが楽しくて、できないと思うと何も始まらないじゃないですか、なんとかやってやろうという気持ちが強ければ、意外になんとかなるものです」。

自分の方法論を見直すために、
たくさんの方とお話したい。

2008年は、新築のホテル一棟をプロデュースした。
「名前、ロゴ、アメニティ、内装など、トータルでデザインプロデュースしていくんですが、大変でした。進め方がわからないこともたくさんあったので必死で勉強しましたね。特に今までの物件とは規模が違うので関わっている人の数も決定していく項目も数が半端じゃない、泣きそうでしたね(笑)」。

内装写真3

内装写真4
photo/Fukuzawa Akiyoshi

建築家として10年目。
「いろんな方に会って勉強したいっていうのが正直ありますね。今までは自分の流れで自分の思うようにずっとやってきているので、そうじゃなくていろんな方と会って、他の方の仕事のやり方や考え方にとても興味がありますね。今年は独立してちょうど10年目なのでもう一度初心に戻って、自分のやり方をもう一回見直してみようかなっていう気がちょっとあります」。

後藤氏

公開日:2009年02月09日(月)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:株式会社ランデザイン  浪本 浩一氏、株式会社ライフサイズ 杉山 貴伸氏