「老舗の和菓子屋さんのようなウェブ制作会社」が信条
木村 浩氏:プラスデザインカンパニー(株)

アラフォー世代の木村浩さんは3年前に独立し、大阪と東京を拠点に活躍するウェブ制作会社・プラスデザインカンパニーを起業した。現在は北区同心に本社を構え、関西の大学や大阪府などの行政団体から、名だたるメーカー・サービス業まで、様々な顧客のニーズに応じたウェブサイトを制作している。
自然体の素顔が魅力的な木村さんに、独立に至る経緯や仕事への取り組みについてお話しを伺った。

音楽にのめり込んだ学生時代、そしてクリエイターの道へ

木村氏

プラスデザインカンパニーの代表である木村さんは、大阪芸術大学の出身。芸術計画学科でデザイン・美術・音楽・文芸の幅広い知識を学び、その後、東京にある音楽の専門学校へと進んだ。

「もともとYMOとかテクノが好きで、音楽をやるなら東京!と思って上京したんです。専門学校に通いながらバンド活動もしていたんだけど、結局ミュージシャンになるのはやめちゃった。なんかね、すごく嫌だったんですよ。音楽業界の人たちが学校に講師として来るんだけど、いかにも業界人というか、かっこつけてるというか。このまま東京で音楽業界に入って自分がこんなふうになるのは嫌だ、そんなの自分らしくないと思って(笑)」

その後、大阪に戻った木村さんは、求人広告でふと目にとまったゲーム音楽クリエイターの仕事に応募。テレビゲームなどで使われる曲や効果音の作曲を手がけていたが、2年ほど経った頃、かねてから興味があったデザインの仕事をしたいと思い転職することに。

「デザイン会社に転職して、ウェブデザインをはじめたんです。小さな会社だったからどんどん仕事を任せてもらえたし、居心地がよかったのもあって10年くらいそこで勉強させてもらいました。」

「遅れてきたベンチャー」がいよいよ始動

木村氏

当時はIT系の全盛期。しかしクライアントである広告代理店が徐々に大阪から東京へとシフトしていくなかで、木村さんが在籍していたデザイン会社でも東京に支社を出す話が持ち上がる。そんなとき「支社を出すよりも、どうせならウェブ制作の部門を独立させて新しい会社を作ってみては」と当時の社長から提案されたことで、木村さんは独立を決意した。その時39歳。独立するには遅咲きと言われる年齢だったが、特に不安はなかったそうだ。

「いつかは独立するだろうとどこかで考えていたので、そろそろ自分でやる時期がきたなと。たしかに39歳での独立は遅いほうかもしれないけれど、自分では『遅れてきたベンチャー』といって楽しんでいました。年齢を重ねた分たくさん経験を積むことができたし、若いうちに独立して苦労している人を見てきたので、リスクを察知する嗅覚が養われて逆に良かったと思っています」

大胆かつ慎重。迷ったときは自分の勘を信じて即座に動くという木村さんだが、その一方で危険を嗅ぎ分ける嗅覚を身につけたことは、その後社長として会社を動かしていくうえでも大きな武器となった。

信用を第一に、顧客と深い繋がりをもつ

こうして勤めていた会社からクライアントを引き継ぎ、自らのウェブ制作会社を立ち上げた木村さん。機能性とデザイン力に優れたウェブサイトはやがて高い評価を得るようになり、最近では50社以上が名乗りを挙げたコンペを勝ち抜き、大阪府の公式ホームページも制作したという。

会社の評判は上々。クライアントからは次々と仕事が舞い込み、起業時に3人だったスタッフも9人に増えた。しかし起業から3年経った今も、クライアントの数自体はほとんど変化がない。あえて自分から顧客の新規開拓をしないのには、理由がある。

「仕事でいちばん大切なのは信用。それは日々積み重ねていくものです。そのためにも、一見さんお断りとまではいかないけど、今お付きあいのあるクライアントさんを大切にしたい。昔かたぎな和菓子屋さんのようなイメージです」

木村さんは今、デザインや制作はなるべくスタッフに任せ、自身は企画段階での打ち合わせに専念している。ウェブサイトを作る目的は何なのか、ターゲットは誰か。クライアントである広告代理店の方とともに企業へと赴き、効果的なウェブサイトの制作に向けて戦略を練る。そのていねいな仕事ぶりは、着実にクライアントからの信頼を厚くしているに違いない。

10年後はまだ白紙。さぁ、今度はなにをはじめようか?

木村氏

経営が軌道にのりはじめた今、木村さんはすでに終着点を見据えていた。

「アメリカの大統領は2期8年までしか在任できない。それは3期目ともなれば、どんなに良い人でも腐ってくるからではないでしょうか。だから僕は、社長というポジションに10年も20年もいるつもりはありません。会社がある程度安定してスタッフに任せられるようになったら、若い人にバトンタッチして会社を譲りたい、それが僕の理想です。そのためにはしっかりとスタッフを育て、自分自身も新たな課題を見つけながら成長していきたいですね。将来の夢?うーんそうですね…。何年か海外を放浪するのもいいし、小さな本屋さんとか趣味のお店を開くのもいい。でもそんなに甘くはないかな(笑)」

公開日:2009年01月13日(火)
取材・文:株式会社Clay 渡邊 真由子氏
取材班: 福 信行氏