人をつなげて、間に立って、感性を使って、そんな人がもっと必要だと思う。
奥山 天堂氏:(有)アートニクス

西本町の欧風食堂millibar(ミリバール)は、かつて本町でコンテンツレーベルカフェを経営していた奥山さんのお店だ。お店のこと、事務所のこと、これからのことなど、詳しくお話をおうかがいしてみました。

21歳でカフェをオープンした当初は、ほとんど寝てなかった。

「場所を持ってみたいという思いがありました。いろんな方と組んでイベントを行っていた兄の影響で、劇団とかの手伝いをしていたのですが、場所を借りるたびに空間がほしいなと思っていたんです」と語る奥山さん。21歳でお店をオープンするまでの期間は、空間を持つことを目指してカフェなどでバイトする日々だった。
「映画、音楽、インテリアなどたくさんのことに興味あって、空間を持つと全部やりたいことができるかなと思って。そのときは理想だけで、維持する難しさとかお金を生まないと続かないということに後で知ることになったんですが(笑)」。

お店を始めた当初は不慣れなことばかりで明日のこともおぼつかなかった。
「自分が慣れていないというか、まだスキルが備わっていないんですよ。どうしよう?と迷う原因はすべて自分にあるんです。ほとんど寝ていない時期がありました。閉店時間になっても、常連さんがいたらずっとお店を空けていたんです。帰ってほしいとも言えない。単純に今振り返ると良かったなと思うのは、いろんな人に興味があったんですよ。変わった人でもこの人面白いわーと思って、しゃべるんだったらずっとしゃべるんです。まったく違う感覚をその人を通じて見ることが面白かったんです。そうすると、誰かが誰かを『喜ぶと思って連れてきたよ』と紹介してくれて。そういう連鎖って大事ですよね」。

奥山氏

コンテンツレーベルカフェの準備期間中、あちこち見て回わった中で自然に見ていたのは古くから経営されているお店だった。
「いきなり歴史あるところの良さを盗もうと思っても無理に決まっているんですが、落ち着いたりかっこいいなと思う店というのは歴史あるところですよね。今からやろうという人間がそういう空気を出そうと思うと無理ですけれども、船場というエリアでやったのはそういう空気を大事にしたかったからなんですよ。土地としては何百年も昔から商人たちの街だったこともあり、今から始めるお店に足りない部分を少しでも補えると思いました。堀江などの流行の店が固まる場所を避けたのもあります。結果的に良かったのは、情報誌などで取り上げられる際に、話題のエリア外だから別枠扱いしてくれて、必ず特別扱いなんですよね(笑)」。

空気感を大切にしていきたい。

millibar

残念なことにコンテンツレーベルカフェは10周年間際に、火災被害でお店ごと焼失してしまう。しかし奥山さんは結果的には良い意味でリセットすることができたとポジティブにとらえている。
「次にオープンする目処もなかったですし、スタッフも解散しました。新しくお店をはじめようとなったときに、急に違うスタッフで同じ名前の店ができているのは嫌だったし、前と店名が同じだと、僕が比べてしまうと思うんです。10年の間に変わっている感覚もあると思うので新しい店名にしたかった。お客様も前の店と比べるでしょうね」。

millibarは、空気感を大切にしようというコンセプトで名付けられた。
「空気の重さって目に見えないものだけど、それの単位っていいなあと思ったんです。ギャラリーも音だけ残してロゴだけ印象を変えたんですよ」。

コーディネーターというポジションを確立していきたい。

奥山さんの会社アートニクスでは、店舗のコーディネートや内装設計業務が軸となっている。
「クライアントさんの要望をどこで拾うのか、店をやっているというのでお手伝いできることがあったり、全く飲食をやっていない人とはちょっと違う側面で助言できたりすると思います」。

組んだ相手とどうコミュニケーションをとるのか、ということは今までの接客や店舗運営の中でつかんできた。デザインを行うスタッフにも、まずお店に立つことでコミュニケーション能力を養ってほしいと奥山さんは考えている。

millibar店内

「イベントや商品の企画を手伝ってほしいと言われることもあります。現在もある商品のブランディングやプレス活動を行っています。これから軸にしていきたいのはコーディネーターという位置です。なんとなく奥山のところに相談に行ったらなんとかなる、と思ってもらえたらうれしいですね。なかなかそういうことを仕事にするのは難しい部分がありますが。

内装とかはわかりやすいんですよ、成果物があるので。でも人をつなげて、間に立って、感性を使って、そんなふうな人が必要だと思うんです。コーディネーターの価値が僕はすごく大きいと思うし、誰もができない能力だと思うんですよね。クリエイターとしてはそういう部分を延ばしていきたいですね」。

公開日:2009年01月08日(木)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:つくり図案屋  藤井 保氏