夢のあるメディアをつくっていきたい。
大野 通子氏:(有)フリーカード・システム

駅ナカや街に設置されたラックで無料のポストカードやフリーペーパーを受け取ったことのある方は多いはず。そんなラックを設置し、時にはメディアそのものをつくる会社がフリーカード・システムです。中津にあるオフィスで、代表の大野さんにいろいろお話をおうかがいしました。

海外で出会ったフリーカード広告を日本でやってみようと思った。

25歳のころ、広告会社を辞めて、タイへ放浪に出掛けた大野さん。結局そこで2年間、滞在することになる。「半年間、何もしていませんでした」。その後、タイ語学校に通い、そこで日本人スタッフを募集している地元新聞社の求人広告を見つけ、日本人駐在員向けの総合新聞に携わることに。社会面のグルメ記事などを書いていた。

大野氏

「ある日ふと日本へ帰ろうと思ったのですが、イギリスに姉が住んでいたので帰国ついでに寄ることに。そこで出会ったのがフリーカード広告でした。日本に帰るきっかけもほしかったので日本でこれをしようと思ったんです」。フリーカード広告はスウェーデンが発祥であり、アメリカやヨーロッパなどで普及していた。大野さんはいろいろな国の媒体資料を集めて勉強し、大阪で、斬新な程おしゃれな広告をつくろうと考え、ナショナルクライアントにしぼって営業しはじめる。「印刷屋さんに出世払いでお願いね、当時は通用しましたね。ラックも昔のよしみの什器屋さんに頼んだりして、自転車操業でしたね。ラックを立ててみると、いろいろ広告の問い合わせをいただいて、だんだん波に乗ることができました」。話題のカフェやレストランへラック設置する『シティフリーカード』の他に、駅設置のラックの販売もしています。かつて10年間運営した『フライメール阪急(阪急沿線に17台設置)』が無くなって以来、大阪市営地下鉄のポストカードラック『デジャパ(15駅17台)』の販売をしています」。

その後、さらにフリーペーパーを流通させる事業に着手する。「次は街に精通している会社です、というのが自分たちのキャッチフレーズになってきました。フリーペーパーの流通業務を専門的にやる会社があまりない、ということでこの仕事が増えてきまして、音楽フリーペーパーの『フライング・ポストマン・プレス』や、クーポンマガジン『ミルクル』の創刊もお手伝いさせていただきました」。

街はメディアになる。人はメディアになる。店はメディアになる。

「今度はショップの中で広告できますよ、という売り方を広告代理店のSP部に売り込みに行きました。焼き肉屋で口臭予防剤のサンプリングをさせていただいたり、スポーツバーなどでモニターを使って映画のプロモーションをしたり。単純なチラシ設置やポスター張りもしますが、今は結構そういう仕事が多くなっていますね。映画配給会社や新聞社の事業部など、社員さんが片手間でやっていたことを、専門的にやりますと、広告商品として売り込んでみたら、意外と興味をもっていただいて」。

21歳で広告営業の会社に入り、4年間その会社の広告課に在籍した。「単純な広告の営業は苦手だったので、編集タイアップやイベントタイアップなどで広告を集める方法を我流でやっていました。そのうち、イベントの集客を目的とした会員組織を運営することになり、スポンサーを募ってのセミナーやイベントがレギュラー化。「なるには講座」と題したセミナーも年に数回、ホテルなどで開催し、スクール関連の広告主を募りました。そこでも会場を始め、講師の先生、お菓子もすべてご協賛をいただいておりました。そういう手法が好きだったですね。今もその延長にあると思います」。

ラック

社員からあがってきた事業もたくさんある。「オフィス配布ルートもそのひとつです。ワンコンセプトの配布物を集めてきて、冊子をつくり、オフィスへ配布しています。『フル・オブ・アート』は美術展の冊子ですが、シリーズとして6号目になります。当初は、メディアとしても、商品としても価値が薄いと思っていましたが、最近は、手作り感のあるものへも理解できるし、ある意味自由にやってもらう中で、メディア創出につながればと期待しています」。

ムーブメントが起こせるようなメディアがつくりたい。


スウィングカード

2006年8月に大阪でスウィングカードという新しい媒体を立ち上げた。2008年10月には、東京でもスタートした。「オランダでうちのお母さんが見たんですよ。こんなカードあったわ、と(笑)。日本にまだないから日本でやってみようと思って始めてみました。スウィングカードは、ラックをぐるぐる回して気になる情報(=広告)をとってもらうというものです」。

外国から日本に来る旅行客のためのメディアにしたいと考えている。「これだと広告売上の限界があると思うので、設置ホテルのインフラを活かして次なるメディアもつくりたいと思っています。観光ビジネスにおいては、いずれ、日本の田舎町まで外国人が足を運んでくれて、楽しんでもらいたいですね」。

取材風景

ずっとメディアでありたいと考えている。「そう簡単に収益があがる媒体を生み出すというのはできないとは思いますが、世の中の流れを見ながらムーブメント起こせるようなメディアがつくりたいですね。『生活の糧を得るために売り上げをあげなあかん!』とやっていると夢を失ってしまうんですよね。夢のあるメディアをつくりたいのです。発信して誰かに影響を与えられる快感があるというのがありますね。昔、クラスで壁新聞係になるのが好きでした。こんなクイズつくろう! とか、あのルーツを探ろう! とか、キャッキャ言いながら貼り出した日の喜びというのが楽しかったんですよ。そういうものがつくりたいですね」。

公開日:2009年01月05日(月)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:株式会社ゼック・エンタープライズ  長尾 朋成氏 /  真柴 マキ氏