メビック発のコラボレーション事例の紹介

育てる人、料理する人、食べる人、すべての人に大切な食の根っこ「農」の未来をひらいていく
農産物の販促ツール

イラスト

大阪の農についてクリエイターが知る
まず、そこから始まった

なにわの伝統野菜をはじめ大阪には多くの農産物があり、農業者たちは、町なかや町に隣接した農地で農業を守り続けている。彼らを支援しているのが、北部、中部、南河内、泉州の4地域からなる大阪府の農と緑の総合事務所だ。農業者が手塩にかけた農産物をどう売っていくか。中部事務所では、大阪の農産物をより多くの人に知ってもらうためには、広告制作や宣伝活動に関わるクリエイターの力が必要だと考え、プロジェクトチームを立ち上げていた。そこでメビック扇町にも相談。堂野所長から「大阪の農について、クリエイターに知ってもらうことから始めたらいいんじゃないか」というアドバイスを受けた。そして2014年6月、メビック扇町で行われた「企業などによるクリエイター募集プレゼンテーション」に参加。プロジェクトチームの一員である高取佐智代氏がプレゼンテーションを行った。「おかげで、たくさんのクリエイターさんに関心を寄せていただくことができて、9月に予定していた現地見学会についても、予想を上回る反響がありました」と高取氏は語る。

現地見学会風景
八尾市内の紅たで畑。目の前で収穫された紅たでを試食する参加者も。

9月2日、高取氏が担当する中部管内の現地を見学するバスツアーが行われた。参加したクリエイターは20名。普段見慣れない光景にクリエイターたちは興味津々。農業者とクリエイターとの意見交換会と交流会も行った。意見交換会では、これからの農をどうするかを真剣に語る農業者の声に耳を傾け、積極的に質問し、時間が足りないほどだった。「一日に多くを詰め込みすぎて反省点もありますが、お互いにわかりあおう、一緒にできることを見つけようとする皆さんの姿を目にして、ほんとうにいい出会いになったと思っています」

現地見学会風景
柏原市の綿畑。遊休農地の解消と地域産業の振興のため、「柏原コットンファームプロジェクト」が進行中。

偶然の再会、農とクリエイティブのコラボへ

プレゼンテーションとバスツアーへの参加者の一人に、デザインQの嶋崎依里氏がいた。プレゼンテーションの日、高取氏の姿を見て嶋崎氏は驚いた。「3年ほど前に、高槻市の伝統野菜『服部越瓜(はっとりしろうり)』」を紹介するマップを作らせていただいたんですが、その時に北部事務所で高槻を担当していたのが高取さんだったんです」。高槻での仕事が完了したあとは、デザイン業務で農に関わるきっかけもなく、高取さんの中部事務所への異動も知らなかった。「あの時の、見る人の気持ちを考えた嶋崎さんのマップが忘れられなくて。大阪の農産物を多くの方に食べていただくことにクリエイターさんの力を借りようという思いの元になっています」。偶然の再会が、農とクリエイティブのコラボの実現を加速させた。高取氏は、増刷を控えていた「八尾いただきまっぷ」のリニューアルを嶋崎氏に任せようと八尾市の担当者に話をし、嶋崎氏が「まず、地域の野菜に興味を持ってもらえる、わかりやすい編集が必要」とデザインの改善をはかった。

八尾いただきまっぷ
おいしさを伝えるには、召し上がっていただくのが何より。特産品を味わえるお店やレシピ紹介など、読んで歩いて楽しい「八尾いただきマップ」

「食べることは生活で一番重要なこと。全ての人に必要な、食を支える農に対してデザインできることに、やりがいを感じました」と嶋崎氏。できあがったマップは、八尾の農産物の魅力を楽しく分かりやすく伝えてくれると評判が高かった。そのマップをきっかけに、枚方市の給食で提供される「エコレンゲ米」の農法を小学生向けに解説したクリアファイルも生まれた。

自然の影響を受ける農業には技術が必要だ。「今、大阪には若い世代の農業者、技術の担い手がいます。彼らが農業を続けていくために何ができるのか、考え、動く時です」。高取氏の声に力がこもる。生活が成立することが後継者を絶やさないための前提条件だ。だからこそ“売れる農”を実現しなければならない。2015年2月に第2回現地見学会が実施され、今後も続いていく計画だ。農業者とクリエイターが理解を深め合い、共に働く事で農の未来のためにできることが必ずあると、高取氏と嶋崎氏は声を揃えた。

嶋崎氏、諸岡 充氏、高取氏
左から、嶋崎氏、大阪府中部農と緑の総合事務所・諸岡 充氏/高取氏。手に持っているのは八尾若ごぼう。

デザインQ

嶋崎依里氏

大阪府中部 農と緑の総合事務所 農の普及課

高取佐智代氏

http://www.pref.osaka.lg.jp/chubunm/

公開:2015年5月7日(木)
取材・文:井上昌子氏(フランセ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。