メビック発のコラボレーション事例の紹介

“ええもん”は譲れない。商都再生の熱意が生んだシンボリックな店舗デザイン。
天満天神MAIDO屋

吉澤生馬氏、赤尾江里子氏
吉澤生馬氏(左)、赤尾江里子氏(右)

心から薦められる品物を売りたい。大阪商人魂がムーブメントを起こす。

日本一長い商店街として名をとどろかす天神橋筋商店街。そのなかでも、商店街発祥の起源ともいえる大阪天満宮お膝元の2丁目エリアがプロジェクトの舞台だ。数年前に上方寄席の『天満天神繁昌亭』が誕生したのを機に観光客の数は増えたかに見える一方で、看板を下ろす老舗や商売替えを余儀なくされた名店もちらほら。いまひとつ活気が薄れかけている状況は否めない。そんな天満をなんとかせな!と立ち上がったのが赤尾江里子さん。この地で生まれ、商店街を遊び場としながら、先代、先々代の商売を見て育ってきた生粋の天満っ子だ。「観光のお客さんも大事ですけど、商店街なんですから買い物してもらわないと。でも、買いたい店もモノもないんちゃうかなと気づいて。地元天満にもそして大阪にも、“ええもん”はいっぱいあるのに案外知られてへん。それを発信できる場所を作りたかったんです」。そこで立ち上げたのが、大阪で作られている名品を揃えるセレクトショップ『天満天神MAIDO屋』の構想。折しも、家業のトロフィー販売は、インターネットでの取引が主流となっていたため、既存の店舗スペースの有効活用として格好のアイデアだった。あちこちの勉強会や交流会に顔を出しては具体策を練る中、メビック扇町のプレゼン会で出会ったのがインテリアデザイナーの吉澤さん。

MAIDO屋ロゴ
大阪天満宮にちなんだ梅の花モチーフのロゴマーク。パンフレットには、天満宮の宮司さんや、『天満天神繁昌亭』支配人からの応援メッセージも寄せられるなど、地元の期待を一身に背負っている。

「いやぁ、赤尾さんて熱い人やなぁというのが第一印象で(笑)。大阪の魅力発信って、行政が取り組む事業ならともかく、個人が商売としてやるという話でしょ。その壮大な地元愛にまず打たれたんですよ」。コンセプトワークから引き受けて、店舗デザインまでを共に走ることになる。赤尾さんの中には、なにせ引き出しがいっぱいだ。子どものころから見聞きしていたあの名物にこの旨いもん。人づてに知り合った名職人の手わざの数々。商品の持つストーリーの一つ一つがまた珠玉で、虜にさせるモノたちばかりだ。「そんなものを集めて売りたいんよ!というような話を、吉澤さんに延々と話してましたねぇ。めんどくさがらずに、よう聞いてくれはった(笑)。話しながら、整理してもらったんですね、頭の中を」と赤尾さん。吉澤さんの方も「大阪と言えばコテコテ、ヒョウ柄、タコヤキというステレオタイプにうんざり気味でしたから、これは面白いと。赤尾さん個人の熱意から、ムーブメントを生み出す可能性も魅力でした」。

店にも商品にもストーリーが大事。その共通認識がコラボ成功のカギ。

吉澤さんがまず意識したのが、ここは“天神さんを祀るハレの場”ということ。その空気感を店先に演出することだった。キーになるアイテムとしては、天神祭りの船渡御で飾られる鈴なりの提灯。これを升に切ったスペースに一つずつ収めて、店の正面を飾るモチーフとした。「“ええもん”を大切に箱に入れるというイメージ。雑多にてんこ盛りに見せるのとは違って、品物の質の高さを感じさせる丁寧な扱いを表現したかったんです」。店頭のデザインでもう一つこだわったのが、先代社長の時代に店の入り口に設置されたゲート型の意匠を活かすということだった。「もともとあった店舗を改装してまったく新しいコンセプトの店を作るわけなので、強烈なデザイン性を持つアイテムは取り除くという選択の方が楽だったかもしれません。ですがここは、あえて引き継いで活かすという方針で考えていくと、このゲートを船の櫓に見立ててリデザインする方向が見えてきた。水運で栄えたこの地で、“ええもん”は川からやってくる。賑わいを生み出す流れを、川からこの店に船で運んで来ようというストーリーが広がりました」と吉澤さん。この場所だからこそ、という意味のある店舗デザインが生まれたわけだ。その櫓に見立てた外枠の内側に、枡形に収められたいくつもの提灯が飾られる。

天満天神MAIDO屋正面
提灯は天神祭に使われるものと同様で、江戸時代から続く職人工房の作。ロゴマークとともに添えた「すかたん」「ごんた」など11種類の大阪弁が楽しい。
写真:Stirling Elmendorf Photography

吉澤さんが店舗設計にストーリーを重視したように、赤尾さんも取り扱い商品を決めるにあたって同様の視点を最重視する。「“ええもん”には商品にストーリーがあると思うんです。作り手の想いだとか、積み重ねてきた歴史とか。商品の背景を発信させてもらうことで作り手を応援したいし、買い手の満足もそこからくると思いますから」。そのセレクト基準こそがまさに『MAIDO屋』のブランディングであって、目利きに抜かりはない。

天満天神MAIDO屋店内
写真:Stirling Elmendorf Photography

生産者を訪ねて話を聞くのは当然として、たとえば、天満を舞台にした話題の時代小説『銀二貫』を書籍として仕入れた際にはそれだけでは飽き足らず、この小説に登場する寒天料理までも扱おうという徹底ぶり。赤尾さんのこうした熱意は周りも巻き込み、知る人ぞ知る名品を紹介してくれる知己にも恵まれ、凄腕のバイヤー顔負けの商品を集めてきた。場所柄、観光客に大阪の良さを紹介していくことはもちろん使命だが、「うちらの街にこんなええもんあってよかったなぁ、って大阪の人に再認識してもらいたい気持ちが強いです。大阪が大阪らしい、顔のある街になってほしい」。商店街で育まれたDNAが赤尾さんを突き動かしている。

天満天神MAIDO屋店内
写真:Stirling Elmendorf Photography

PROCESS5 DESIGN

インテリアデザイナー
吉澤生馬氏

http://process5.com/

有限会社イワイザケドットコム

取締役
赤尾江里子氏

http://maidoya.jp/

公開:2014年5月23日(金)
取材・文:大野尚子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。