メビック発のコラボレーション事例の紹介

ピクトグラムが人をつなげる。「人と出会い、人から買う」心地よさ感じる商店街へ
鶴七商店街ピクトグラム

ピクトグラム前での集合写真

「“この人がいるからこの店で買いたい”。そんな、大型スーパーではできない人付き合いを味わってもらいたい」。と、かつて賑わった商店街を活性化するプロジェクトが立ち上がった。トイレや非常口マークなどで馴染みの深い「ピクトグラム」。この、言語の壁を越えて情報を伝えるコミュニケーションツールをつかって活性化を図るという。舞台は大阪市西成区、東西約1kmに延びる「鶴見橋商店街」の7番街「鶴七商店街」。昭和初期には大きな紡績工場とともに栄え、今も手作り豆腐店や洋品店など昔からの店舗が軒を連ねている。地域の活性化に取り組むNPO法人トイボックスの足立尚樹氏とともにプロジェクトを行ったのは、デザイン事務所「bold(ボールド)」の鈴木信輔氏。「初めての人でも入りやすく、お店の人と話しやすい雰囲気を作ることで、もう一度人が集まる商店街にしたい」と、2人の協働プロジェクトがスタートした。

初めての顔合わせで意気投合

2人の出会いはメビック扇町。鶴七商店街から活性化の依頼を受けた足立氏が、かねてより温めていたピクトグラムを活用するアイデアを一緒にカタチにしてくれるデザイナーとの出会いを求め、メビック扇町に相談した。その結果、協働のパートナーとなったのが鈴木氏だ。「話をしてすぐに、プロジェクト内容と足立さんの人柄に魅力を感じた」(鈴木氏)と初めての顔合わせで意気投合したという。

23店舗を巡るインタビューから始まった

「顧客とのコミュニケーションのきっかけになってほしい」。そんな思いで各商店を表すピクトグラムの開発に着手した。ただのマークやロゴではなく、誰をターゲットに何を売っているのか、強みは何なのかが伝わるものにこだわった。まずは2人で各商店を訪ね、じっくりと話を聞いてまわった。シンプルなピクトグラムで表すためには、お店のアピールポイントを明確にしなければいけない。この作業を通じて、お店の人自身が商売の強みや特徴を再整理することにもつながったという。「座学でコンサルティングを行う手法とは違って、お店の人たちが主体的になってくれたことに大きな意味があった」(足立氏)。そして、インタビューの熱量がそのまま反映されたような23店舗分のピクトグラムが完成。デザイン面では、「各商店の個性を出しつつ、全体の統一感を失わないようバランスを大事にした」(鈴木氏)という。

立ち飲み屋ピクトグラム

ピクトグラムが優しさを発信!?

この他、商店街では明記されていることが少ない営業時間や、駅までの距離など、商店街共通のピクトグラムも作成。「伝えたいこと」や「伝えなければならないこと」を洗い出すことで、商店街全体の強みや課題も見えてきた。「大型スーパーに負けない努力も必要」(足立氏)と、授乳やおむつ替えができるスペースが新たに設けられた。これらをピクトグラムで案内することで、初めて訪れた人や外国人にも安心して入ってもらいやすくなり、一見さんや家族連れに優しい商店街だというメッセージの発信にもなる。「下町感やちょっと“くすっ”とできるようなデザインを大事にした」(鈴木氏)と、開発した29種もの公共ピクトグラムは、商店街のにぎわい感にも一役かっている。

案内板ピクトグラム

まず「半歩」から、丁寧に積み上げていきたい

活気ある時代を知っている店主からは、「こんなんやっても無駄や」と、プロジェクトスタート時には批判的な言葉もあったが、最後には全員が笑顔で受け取ってくれた。「丁寧にコミュニケーションをとりながら作ったからこそ、全員に喜んでもらえたんだと思う。商店街の人たちが前向きな気持ちになってくれたことでまず半歩」と2人。「次はマップとか、作りたいものは次々出てくるけど、そんな自分が考えるデザインのペースではなく、商店街のペースに合わせて長い時間軸でみていきたい」(鈴木氏)。今後はこのピクトグラムを使ったスタンプラリーなど、商店街全体で活性化のために運用していくことが課題だ。「商店街の人たちと一緒に、一歩ずつ丁寧に積み上げていきたい」と2人は話す。

「この人がいるからこのお店へ」他の商店街にも広げたい

「今は“生き方を考える時代”。人を知ると同じ買い物でも変わってくる」(鈴木氏)。「“この人がいるからこの店で”という、人から買う心地よさを味わってもらいたい。そして、“この店、この商店街があるから、この街に住みたい”と思ってもらいたい。ピクトグラムがそのきっかけになれば」と2人は語る。「商店街でこのようにピクトグラムを使ったプロジェクトはおそらく初めて。今はシャッター通りとなっている商店街も多いが、地域に代々あって、駅前など立地がいいところも多く、ポテンシャルは高い」(足立氏)。この鶴七商店街を皮切りに、今後はこの取り組みを他の商店街にも展開していきたいという。そして、早くも次の企画の話で盛り上がっていた。2人の協働プロジェクトはここからさらに広がっていく。

洋品店ピクトグラム

特定非営利活動法人トイボックス

参事
足立尚樹氏

https://www.npotoybox.jp/toybox/

bold(ボールド)

アートディレクター / グラフィックデザイナー
鈴木信輔氏

http://bold-d.jp/

公開:2013年10月24日(木)
取材・文:小林律子氏(株式会社PRリンク

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。