メビック発のコラボレーション事例の紹介

クリエイターがゆるやかにつながる縁側的シェアスペース「FACTO」
クリエイターズシェアオフィス FACTO

メビック扇町での出会いからプロジェクトが加速

堤庸策氏

大阪市西区にあるクリエイターズシェアオフィスFACTO。フロアの半分が、木製のパレットで区切られたワークスペース、もう半分がフリーなイベントスペースとなっているユニークな空間だ。ここでの出会いをきっかけに、さまざまな新しい試みが動き出しているという。代表をつとめるのは、建築家の堤庸策さん。以前は個人事務所を構えていたが、「一人でやっていると、はかどらないこともある。かといって、従業員を雇って規模を大きくするつもりはなくて。同じようなスタンスの人がおのおのに仕事をしていて、場だけ共有することはできないか」と考えていたのだそう。
そんな折、メビック扇町のイベントで同業者の小笠原太一さんと出会う。実は、彼も同じようなシェアオフィス構想を抱いていた。「初めはお互い、会話をするという感じではなかったんです。それが、メビック扇町で何度か顔を合わせているうちに、ちょこちょこ話すようになって。飲みに行ってじっくり話をしたら、『実は俺、こんなん考えとってん』『それなら一緒にやろや』みたいな形で始まりました」と堤さん。現在のFACTOのスタイルは、この二人で共に構築していったという。後に小笠原さんは上海の設計事務所で働くことになり、現在は堤さんが一人で運営している。

自然に人とつながる自由な空間

FACTOの大きな特徴は、ワークスペースとイベントスペースの間に隔たりがないこと。ファッションの展示会が行われているすぐ隣で、別のビジネスミーティングが行われているといった光景も珍しくないという。イベント開催期間はわりと騒がしいこともあるそうだが、そういった環境をメンバーはどう感じているのだろうか? シェアオフィスにデスクを置くmémのアートディレクター前田健治さんによると、「ある程度がやがやしているほうが、仕事がはかどるんです。逆にイベントが終わってしまうと、さびしく感じるほど。それに、イベントに来る様々なジャンルの人たちと知り合うことができるのが何よりうれしい。ここに来てから、人との出会いがめちゃくちゃ増えました」とのこと。
オフィスのメンバーとは、単純な大家と店子という関係ではなく、共同でイベントやワークショップも行っているという堤さん。そこからまた、新しい協働へとつながることもあるそうだ。例えば、「FACTOで主催したポートフォリオ大会に参加してくれた方が、ここの空間とグラフィックデザインを両方気に入ってくださって。ご自分の店舗を作る際に、設計は私に、グラフィックは前田さんに、と声をかけてくれたんです」。このように、FACTOという共有の空間で面識を重ねることで、知り合った人たちが自然とつながる。これこそが、堤さんが目指すスタイルだ。
「極力、誰かが軸になるのではなく、集まる人たちの自発的なつながりを大切にする」というコンセプトにこだわる理由はどこにあるのだろうか。堤さんに聞いてみると、「あまり色をつけすぎてしまうと、カタにはまったプロジェクトや仕組みになってしまう。そうした方が、わかりやすいし物事が進みやすいとは思うんです。でも、ここはもっと、可能性を引き出せる場にしたいんです」と答えてくれた。作り込んでない空間だから、使う人が自由に自分の色に染めていけるのがFACTOの特長。ソフト面でもそれは同じで、ある程度の基本ルールはあるが、それから逸れたからといってすぐにアウトというわけでないらしい。「『こういう使い方があるんや』とか、『そう来たか』みたいな発見や驚きがあるのが楽しいんです」と、フレキシブルに形を変えていくことを歓迎しているのだという。

「FACTO」のワークスペース
木製の輸送用パレットをパーティションに仕立てたワークスペース。仕切られてはいるものの、常に入居者同士がお互いの存在を感じられるようになっている作りだ。

異なるジャンルのクリエイターの働く姿勢から学ぶ

今年からFACTOでオフィスをシェアし、WEBコンテンツの企画制作を行うCIRKLEの今井啓史さんと塩江崇晴さんは、「他の人ががんばっている姿を見ると刺激になる。自分もがんばらないとって思う」と声をそろえる。堤さんいわく、「一日中、お互いの仕事を感じていて、あの人はこういうスタンスで仕事をするんやなっていうのが直に見られる。そこから色々と学ぶことができる。個人事務所や、ある程度の組織であっても社内にいるのはあくまで身内。それとは違って、全く異なるジャンルの人たちの、仕事の仕方、姿勢のようなものも勉強できるのが、ここのいいところだと思うんです」
カタにはまらない運営を心がける堤さんが決めている数少ないルール。それは、オフィスに知り合いを入れないということ。「運営を始めた当初、知り合いを呼んで固めたら手っ取り早いという話は出たんです。実際に興味を持ってくれた仲間もいます。でも、それだと身内ばかりになってしまって、可能性の幅を狭めてしまう。だから、大変ではありますが、あえて僕個人の知り合いではない人に来てもらおうと決めました」。今のところメンバーは皆、応募で初めて会った人ばかりだそうだ。

イベント・ギャラリースペース
ギャラリーやワークショップの会場などとして利用されるイベント-ギャラリースペース

クリエイターが集まる縁側のような場所でありたい

FACTOのこれからを堤さんにたずねてみる。「クリエイターの縁側みたいな雰囲気を作りたいんですよね。肩に力を入れずにふらっと来て、ふわっとつながる。そういう場として定着してほしい。それと、運営としてはあえて大変な道を選んで普通ではないようなスタイルにしていますから、高い可能性を作っていきたいという想いもあります」
ちなみに、FACTOという名前の由来は、アンディ・ウォーホルがNYで主催したスタジオ「The Factory」から来ているという。「多種多様な人々が集まり、横のつながりを構築し、おのおのが相乗効果を高めていく。そういうきっかけの場になってほしいとの想いを込めて命名しました。その気持ちはずっとキープしていきたいですね」

パブリックスペース
シェアオフィス入居者が、打ち合わせなどで自由に使えるパブリックスペース。

FACTO

代表 / 設計事務所arbol(アルボル)所長
堤庸策氏

http://facto.jp/

公開:2013年7月22日(月)
取材・文:清家麻衣子氏(C.W.S)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。