
実家が和楽器屋を営んでおり、幼少の頃から音楽に親しみがあったという安藤さん。幼稚園の頃からは何故か和楽器ではなく、エレクトーン教室に通いはじめ、バンド活動を始める高校生までずっと続けていたということです。デザインや絵についての関心はそれほどでもなかったのですが、描き始めると凝り性で、年賀状などは同じ人宛にデザインを変えて5枚も出すなど、その片鱗を覗かせていました。

高校や大学ではバンド活動に熱中し、シンセサイザーやサンプラー等を使ってテクノやハウスのダンスミュージックを作ったりと音楽にどっぷり使っていた安藤さんですが、大学卒業前にレコードジャケットや音楽関連のデザイン・アートワークに興味を持ち始めます。ミュージシャンへの憧れもありましたが、音楽はあくまで趣味として接したいと考えていました。そんな中、芽生えたデザインへの興味に素直に反応した安藤さんは「仕事でデザインをする!」と、就職活動でいきなりデザイン会社をメインに回ります。しかし4年生大学の人文学科で経験も無い為、もちろん殆ど門前払い。それでもデザインに関係のない会社は興味がなく、全く受けませんでした。
結果的にダンボール等に印刷する会社に就職が決まり、そこでMacと初対面したと言います。ただ、ある程度のパターンが決まっている仕事でそれほどデザインも必要がなかった為、さらにデザインへの興味が盛り上がり、1年であっさり退職。専門学校に入り本格的に勉強を開始します。
パスタ屋の厨房でバイトをしながらデザイン学校を卒業し、普通であれば就職! となるのですが、ホームページを作るのが楽しかったという安藤さんは半年間家にこもってHPやグラフィックデザインを作っていたといいます。
そして短期で大学関係のHP製作のバイトを経て、新聞広告関連の印刷会社でデザイナーを経験します。やりたい仕事に就けた喜びは大きく楽しかったのですが、続けているうちに「新聞ばかりではなく今度はカラーもやりたい」ということで広告代理店に転職。冊子やチラシ、ポスターのデザインを手がけます。労働条件的には非常に厳しかったのですがやりがいもあり、とても充実していたといいます。
そんな中、あるプロジェクトの仕事でディレクターとしてフリーのカメラマンやコピーライターと一緒に仕事をする機会があり、彼らの腕一本で仕事をするスタイルに惹かれ、「よし、自分も独立しよう!」と決意します。
半年間の準備期間を経て、独立することになったものの、仕事をもらえる予定は全くなかったと言います。安藤さん曰く「ガンガン営業しないと!」と張り切っていたのですが、フリーになることをお世話になった取引先に挨拶しに行くと「自社でのデザイン物も多いので頼めるかな」とのこと、そんな調子で意外にも仕事が決まっていきます。
当初は「何とか自分一人でもやっていけている」だけで幸せだったと言いますが、自宅でやる作業が続く中、だんだんと孤独感や焦りが芽生えてきました。
朝起きて、隣の部屋に入って「おはようございまーす」と「一人朝礼」をしていたのですが、それも限界。
「このままではマズイ。他のクリエーター、起業家たちとも知り合って色々と刺激を受けないと」と思いネットで検索するとメビックが。
成果報告会や見学での入所企業とIMとの雰囲気を見て「ここに絶対入りたい!」と応募し、入所が決まります。

独立して仕事はそれなりに増える中、実家近くの明石市でフリーペーパーを発行している人たちと知り合う機会がありました。それを見て「田舎でもこんな発信をしている人達が居る。自分も請負仕事だけではなく、もっともっと発信したい。」という思いが芽生え、あるイベントで自分のデザインをTシャツにプリントし、販売する機会に恵まれます。そこでは、今まで自分のデザインについて生の声を聞く機会がなかったのですが、ユーザーからのダイレクトなデザインへの反応を見ることが出来たのは大きな刺激になりました。幸いにも初回から好評をいただいたとのことです。
Tシャツブランドのタイトルは「Music Zoo」、動物たちと音楽が表現されています。「音楽を聴きながらだと良いデザインができる気がします」という安藤さん、イベントではジャズピアノの演奏もしながら販売したといいます。
今の所、運が良くて、あまり困ったことがないという安藤さんですが代金回収に苦労したり、徹夜が続いてフラフラになったりということはあるようです。ただ、「楽天的なのと好きなことでメシを食べているという喜びの方が大きいです」とのこと。今ではカーディーラー・商業施設の冊子や販促物、企業やショップのホームページ等の仕事が増えてきて一人では手一杯なので今後はそれをどうするかが課題です。


昔からものづくりの作業を黙々とやるのが好きで、作り上げた時の喜びが何とも言えないと言う安藤さん、そうして完成したものを人に見てもらうということが好きなのですが、そういった自己表現は今までは主に音楽でした。今では音楽をテーマとしてデザインをしています。「音楽を視覚化して、リズム感のあるデザインを作っていきたい」と話す安藤さんはとても活き活きとしています。
淡々と語る安藤さん曰く「楽天的でくよくよしないし、あまり考えていません。好きなことをしていたら今の自分になりました。」とのことですが、いきなりデザイナーを目指した経緯などを聞くと、好きなことを追い求めていく力は人一倍のように思います。恐らく製作に没頭する時の集中力にも同じような力を発揮するのでしょう。「デザインで人をワクワクさせていきたい」と語る安藤さんが今後どんな方向を追い求めていくのか楽しみにしたいと思います。
チャレンジャーズクリップ Vol.66 公開:2007年08月28日
取材 文:インキュベーションマネージャー 増見 浩一朗