
安部氏が、映像制作の仕事に携わりたいと思ったキッカケはアルバイト先のレンタルビデオ屋で毎日のように映画に明け暮れていた中の一本「ブレードランナー」(監督:リドリースコット)で見たラストシーン。心を打たれると同時に、映画を見ながら自分でアングルを想定しながら心の中で演出をしていた。こんなに楽しいことはない!こんな仕事をしたい!…やろう!と。
業界へ入る術を持たなかった当時、既に業界で働いていた友人に相談を持ちかけたところ、撮影教材の充実している写真学校への入学を勧められた。見たこともない放送用機材をマニュアル片手に半ば好き放題に使いながら先生や仲間と作品を作る一方、映像制作プロダクションの派遣アルバイトとしてNHKやNGKホールに通う日々だった。今も当時を懐かしみ、業界人でもある恩師や仲間と酒を飲みながら映像についての談義を交わすこともある。
卒業後、ビデオ制作会社に入社。制作部に配属され、アシスタントを経て、演出業務に従事。企業のプロモーションビデオやTV番組、カラオケ映像などを制作。昼夜、休日を問わず映像制作マシーンのように日々作品づくりに没頭しながら、上司や先輩から多くのことを学んだ。その時積んだ苦しみ、楽しみも含めて、全ての経験が今に活かされているという。当時、休みも睡眠も僅かな状態だったが、全てが楽しくて心地よかったと振り返る。
企業のプロモーションの場合、クライアントから発注を受けると、まずコンセプトを基にシチュエーションやタレントイメージなどの概要をまとめた企画を提案。そして、作家が骨子となるシナリオを作成。それに基づいて演出が具体的プランを練り、具現化していく。撮影や編集、仕上げの現場では、カメラマンや編集マン、ミキサーといった技術スタッフとイメージの伝達や表現手法について綿密な打合せを繰り返しながら進めていく。

安部氏は、「一本一本に対して、まず自分の作品づくりであるという視点でその仕事に携わり、常に主体的行動を執ることで楽しみながら活きた作品づくりができる。」「自分が楽しく無いもの、判り難いものは、他人も面白くない」という。

ISDNが主流だった頃、某大手企業のイントラを併用した双方向研修プランの企画に参画した際、テキスト以外に動画やアニメーションという要素を既存のプラットフォームにどうすればストレスなく載せることがきるのか、ということをクライアントや技術スタッフを交えて喧喧諤諤やりあったことがある。
結果、動画は衛星やテレビ会議を使うことになったのだが、その時、将来これがインターネット上で実現できれば、より充実した双方向コンテンツとなり一歩進んだ映像のダイナミズムがあるのでは。ぜひ、やってみたい。放送用の高価な機材を使って、既存のやり方で地上波と同じ画質ではなく、インターネット用に独自のやり方でコストをかけずに作ろう!その市場、ニーズは間違いなく増える。そう思い会社へ具申したが受け入れられず、いてもたってもいられず独立。
新しいことにチャレンジすることは大好きだったので、独立に不安はなかった。独立際、仕事がなかったらどうしようと思う前に、思いを具現化するにはまず何からやろうか!とワクワクしていた。企業して5年目に入り、波はあるもの少しづつ成果を実感する時が増えてきたという。

その秘訣は? 独立してすぐの時期は、とにかく人と会った。上司や先輩からの紹介とか、仲間とか。一日にできるだけ多くの人と会うことを心掛けた。それは決して営業のスタンスではなく、人と交流を持つ事で人脈も広がり、自分自身を知ってもらうために。また、人と知り合うことで常に気持ちがリセットされマンネリ化を防げたとも言う。
仕事として発生するのはあくまで結果。今でも創業当時に会っていた上司や先輩はもとより、当時の社外の知り合い、クライアントとも良好な関係を築けている。こうした人との繋がりは、仕事の上でも、自分自身にとっても、貴重な財産になっていると、安部氏は語る。
映像機器の技術革新や低価格化の進展等により、他業種からの新規参入が増えている時代。同時にまだまだ景気回復には時間を要する経済事情。顧客からすれば、少しでも安く。今まで同様の予算は掛けれない。しかし、映像の魅力を感じていただいている以上、制作者の意識としては、費用をかけてより良いものを提供するものという常識にとらわれず、低価格でも提供できるもの、そのやり方を工夫するという意識改革が求められている。

現在は、自身の演出という仕事と並行して、インターネット用にHDVレベルの画質を少しでも安価で制作していくためのノウハウづくりに取り組み、メディアや媒体に則したアウトプットの方法を探っている。また、実際の仕事を通して、学生との協同の中で人材発掘という面も含め映像制作のノウハウ、作品づくりの楽しさを伝え、育成を心掛けている。
雪のような真っ白なキャンバスに、みんなで思い思いの絵を描きたい。
安部氏は、社名「雪組」の由来でもある夢を追い続けている。
チャレンジャーズクリップ Vol.27 公開:2005年05月31日
取材 文:インキュベーションマネージャー 堂野 智史
※2005年11月末に退所されました。