
「チャレンジャーズクリップ」は、メビック扇町に入所している「起業家=チャレンジャーズ」をメビック扇町スタッフの視点で紹介するインタビュー記事です。

水の流れのように自然にその人に合わせた音楽を届ける。「ジュ・ドー(jeux d'eau)」とはフランス語で「水の戯れ」を意味します。代表を務める中橋氏は、持ち前のセンスと音楽留学で培った技術や経験をもとに、携帯電話の着メロやゲームに使われる音楽をはじめとして、様々なシーンにぴったりなオリジナルサウンド創りを得意としています。京都府生まれの長男坊。3歳からピアノを始めたそうですが、大人しくて髪の毛が長かったため、よく女の子と間違われていたそうです。

その頃のピアノ教室は女の子ばかりだったためレッスンが嫌いで、家ではお祖父さんと将棋を指したり、スポーツ教室に通ってそれを理由にピアノを避けていたそうです。そのおかげか、なんと小学校5年生の時には地域の将棋大会で優勝したことも。それでも何とかピアノは習い続けて、6年生で指導者コースの手前まで到達したそうです。
またその頃、担任の先生が音楽好きだった影響で、流行している音楽をテープから聴き取って楽譜に書いていたそうです。思い返せば現在の音楽製作の仕事に直接つながる経験だったといいます。
中学校に入学した時、ブラスバンド部員がドラムを叩く姿に一目ぼれして、入部したところが与えられたのはドラムではなく、金管楽器のトロンボーン。これが運命の出会いとなりました。吹奏楽コンクールや地域のイベントなどで演奏するうちに、将来トロンボーン奏者として生きたい、という気持ちが固まっていきます。中学を卒業して音大受験コースのある音楽専門学校に入学、トロンボーンを続けるために市民楽団にも所属し、音楽漬けの人生が始まります。

フランス留学中 左が中橋氏
専門学校からの紹介で、フランスの国立音楽大学に入学、個人レッスンを受ける傍ら、フランス国内でオーケストラの団員になるために努力していましたが、現実には次々と現れる若くて高い技術を持つプレイヤーの前に、プロ奏者への高い壁と自分自身の限界を感じるようになったそうです。その頃、先輩を通じて知ったのがコンピューターを使って作曲するDTM。中橋氏は、少しずつパソコンに興味を持つようになり、やがてコンピューターを用いてその時所属していたバンドの曲などを作曲やアレンジするようになります。
中橋氏がフランスに行って強く感じていたのは、音楽が日常と自然に溶け合っていたこと。特に街角のレストランやカフェで憩う人々の会話の合間から聞こえてくる生演奏の音は、日本とフランスの文化の違いを象徴しているように思ったそうです。
「日本で、音楽と日常とがいい関係になる場所を作りたい。」中橋氏は、この夢に挑戦するために帰国します。
帰国後はカフェや新聞配達のアルバイトをしながら演奏会の企画・運営をしていましたが、偶然目にしたエンターテインメント会社のケータイコンテンツのサウンドクリエイター募集の求人に応募し、携帯電話のサウンド開発を始めます。部署内での新規事業立ち上げ時期だったこともあり、同僚の個性豊かなクリエイター達と試行錯誤の毎日。仕様書からのドキュメント作成、実機での検証作業、ターゲットユーザーの趣向リサーチなど音楽制作以外での業務も新鮮で、時折ある企画サイドとの技術的なぶつかりあいも、制作に関するコミュニケーション能力が高まるいい経験となったようです。特にクリエイターとの会議では、技術的なノウハウが共有でき、「こんな事が出来たら面白い」「こんな音を出すのはどうだろう?」と熱論が飛び交っていたそうです。

こうして音楽と深く関係している会社での仕事に、まったく不満はありませんでしたが、フランスで描いた自分の夢を実現するために必要な資金を蓄えるには、今のままでは困難だと独立を決意。会社の上司からの好意の後押しもあり、現在のサウンドデザイン ジュ・ドーを京都の自宅で創業します。知人の紹介などで少しずつ事業を広げていきましたが、心機一転大阪に事務所を構えようとしたときに、メビック扇町の存在を知り、より自分自身を向上させていくために入所を申し込みます。

メビックに入所して大阪に拠点を移してからは、主要顧客と近くなったことや入所企業との連携で仕事が増えるなど、忙しい日々を送る中橋氏。一人で事業をしていた頃にはなかった個人的なつきあいも増え、一人でない心強さを感じているそうです。
これからも枠にはめない、自然なスタンスで制作をしていくことで、社名のとおり水の戯れるような音楽を作り続けていく。そしていろいろなことを試し、いろいろな人と一緒になって演奏家やクリエイターが活躍できる空間、場所を作りたい。
中橋氏がプロデュースしていく音楽や演奏からは、彼がフランスで感じていた日常と音楽が溶け合った空気が醸し出されて行くに違いありません。
チャレンジャーズクリップ Vol.81 公開:2008年12月09日
取材 文:インキュベーションマネージャー 長川 勝勇
※2009年3月末に退所されました。